今年もプロテストの秋がやって参りまして、それはまぁ過酷な戦いの末に21人の新規合格者が晴れてLPGA正会員として入会することになったわけですが、一方でステップアップツアー優勝経験者や、アマチュアの世界的大会で優勝した実力者が合格出来なかったなどの事態がありまして、巷では
"LPGAはここまでプロへの門戸と狭くして、将来ある選手の出場できる試合をなくしている"
"選手生命がさほど長いわけではないプロスポーツ、まして女子の選手にとって、翌年までのブランクは長すぎる”
"世界的に見てもプロテストに合格しないと翌年の出場権をかけたQTに出場できないというのは異常"
などなど様々な批判が噴出しております。
確かに人生をかけてゴルフに取り組んでいる選手当人たちや、その指導やサポートにあたっている立場の方がそのように思われるのは当然と言えば当然なのですが、日本プロゴルフ界の将来展望という点から考えると、合格枠の人数をもっと増やせばとか、QTは別物として誰でも受けられるようにしようよとか、そういう単純な話でもないんだろうなぁと思いましたので記事にしてみます。これから毎年起きることですしね。
LPGAのプロテストからQTにかけての制度変更については過去の記事でまとめております。
選手にとっての一番の問題点は、すでにアマチュア資格を喪失しているTP単年登録制度経験者がプロテストに合格しない場合、完全に無職になってしまうということです。
学生やアマチュアであればまだ出られる大会がないわけではないですし、逆にアマチュア推薦枠でLPGAの大会経験を積むことも不可能ではありません。
ここではLPGAの立場にたって、なぜこのような制度変更を行ったのかや合格人数について考察してみたいと思います。
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協会は会員が多い方が儲かる
まず前提として、LPGAや男子のPGAといったプロテストの資格認定団体は、資格取得希望者が多いほど検定料収入を得られますし、またプロテスト合格して入会する際の入会金や年会費の収入を考えると、合格者も多い方が儲かるわけです。しかしプロテストに合格することと、プロゴルファーとして生計を立てていけることは同義ではありません。司法試験に受からないと弁護士として活動出来ませんが、司法試験に受かったら弁護士で食っていけることを保証するものではないのと同じことです。協会というのはそもそもそういうものです。
なので合格のハードルは下げた方が協会は儲かります。
協会の必要性
一方でプロテストに合格しても結局はQT上位に入ってレギュラーツアーで予選通過しないと競技でメシ食っていくことは出来ないとなると、プロテストに合格すること自体の意義がなくなっていきます。現実に男子ツアーは、プロ資格はPGAが認定しますが、ツアーはJGTOが仕切ってます。よって実質的にプロテスト合格するメリットってあんまりない(ラウンドが少し安くなるくらい)のですが、それでもえらい人数が毎年受けてますので、それなりにビジネスとしては成立してるかもレベルです。
しかし女子の場合、LPGAがツアーの開催も仕切ってますので、選手が賞金を得る手段もLPGAが提供しているということになります。
とはいえ、大会の主催というのはLPGAではなく、○○テレビとか企業などが主催者で、その放映局が代理店を通じてスポンサーを連れてきて運営費や賞金を出しているわけです。
つまり芸能界に例えると、LPGAというのは女子プロゴルファーを多数抱えた芸能プロダクションで、テレビ局で制作している番組に所属タレント(選手)を送り込んで、選手のギャラにプラス@の利益がLPGAに入るという仕組みです。現実問題として賞金収入で生活できる選手って上位100人くらいがせいぜいなので(男子なんて30人くらい)、本来はそういう選手のサポートをしてくれる所属先の企業を見つけたりとかも協力したいところですが、このあいだ行った「うどん県レディース」なんて出場選手の半分くらいはフリー、つまり所属契約先がないのです。
要は、右を向いても左を向いても経済的には結構厳しい世界の中で、芸能プロダクションをやっていくのがLPGAということなのです。
LPGAの今後の展開
しかし四年にわたる交渉の中で、昨今ついにLPGAは大会の放映権をLPGAに帰すことで全主催者との合意に至りました。
というわけで一つの収入源として、これを媒体に売る、あるいはアメリカのようにペイパービュー(視聴者がスポットで直接購入して視聴できる)でコンテンツ収入を得ることできます。日本女子ゴルフのレベルがこのまま成長と盛り上がりを見せれば、海外のネット媒体からも収入が見込めるかも知れません。現実にスカイAは韓国女子ツアーの放映を始めるようですが、国内でワッキャアしたところでその市場効果なんて知れていることをわかってるから売り出しにくるわけですね。
そもそもアメリカ男子ツアーの賞金が高いのは、1試合10億円レベルのスポンサーをどんどん連れて来るPGAのマネジメント能力があってのものですが、放映権や著作権を持っていなければそんな営業開拓が可能なわけがありません。
そういう意味ではLPGAはやっとマネジメント事務所としてのスタートを切ったところということになります。
プロテスト合格者枠を増やせない理由
こうしてみると、LPGAだって現在の資金が潤沢なわけではないことが容易に想像がつきますし、今後放映権その他のマネジメントがすごくうまく行って、1試合あたりスポンサーから2億くらい集めることが出来たとしても、年商100億くらいの中小プロダクション企業なわけですよ。だとしたら年に増やせる所属タレント(選手)って20人くらいが限界だと思うのですね。
またこれまでの実績を見ても、プロテストに合格していないTP単年登録制度からシードもしくはツアー優勝で正会員になれたのって、最近では宮里美香さんとペ・ソンウさんくらいなんですよ。要は2人とも日本以外のツアーで実績がある選手で、高校出て単年登録してその後大活躍ってあまり例がないわけです。
もちろん前述のように、そうした事情を無視してプロテストの合格人数増やせばそれでも収益は得られるのですが、現実に賞金で生計をたてられる人数がそんなに増えるわけではないとすると、貧困プロが増えるだけなんですよ。
子供の頃からゴルフ漬けで18〜20歳とかでプロテスト受かって、ゴルフ以外のことを何もわからないまま大人になって、一握りしかなれない賞金で食えるプロになれなかったら、その子の人生ってどうなりますかね。YouTuberプロとかになれたらまだ才能があるほうで、怪しげなパパのお世話になったり反社会的な香りのする賭ゴルフ的なものにお呼ばれしたり、結構ハードモードな人生になってしまう可能性もありますよね。
そうなると結局将来のゴルフ人口の減少につながってしまうので、それよりもLPGA正会員になれたらある程度(ツアー以外のビジネスも含め)ゴルフを軸に生活設計が出来るようにしていくことの方が、プロダクションの責務として重要だと思うんですよね。
QT一発勝負にできない理由
同様にQT一発勝負に出来ないのは、今後中国、韓国、台湾といったアジア地域の選手がドンドン実力を上げてくる可能性が高いからです。せっかくマネジメントがうまく行って、スポンサーを沢山連れてこれたとしても、なぜかQTに海外の選手が100人くらい出てきて、ツアーの上位選手に日本語喋ってる選手が一人もいなかったらやっぱりコンテンツとしてのバリューは下がってしまうでしょうね。イ・ボミさんみたいにチャーミングで日本語も覚えてくれるとは限りませんから。
アメリカLPGAの轍を踏むことは避けたいわけです。
まとめ
テレビ中心の視聴からネット時代への移行のなかで、こうした制度改革の時期がどこかに存在してしまい、割を食う世代が出ていることは事実だと思います。
しかしその中でLPGAが完全に内向きで無策だと考えるのも妥当ではない気がします。
選手であれ、指導者であれ、人間はゴルフだけで人生が完結するわけではありません。なので二年前に書いたように、高校生の実力有る選手は
・まず大学進学を軸に考え(少なくとも大学の試合には出られる)
・ティーチング資格取得を在学中に目指しつつ
・プロテストも毎年受ける
の三本柱で人生設計をしていくのが良いのではないかと思います。そのあたり指導者もゴルフだけじゃなくてその子の人生について考えていくことが今後ますます必要になってくるでしょうね。
そういえば、紫外線アレルギーでプロテストおよびツアーからの撤退を表明した三浦桃香さんなどは、いろんな人にいろいろ勝手なこと言われて傷ついただろうにと思われつつも、現在ではレポーターやメディアの活動もされていて、きちんと自分の人生とその一部であるゴルフに対して向き合ってるよなと思うわけです。で、そんな彼女のインスタですが
いやぁお着物ですかいいですねぇ。来年にはLPGAティーチングプロフェッショナル会員ですか。そうですか。
って来年からQTでれるやん!