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シャフトの長さによる影響を考える
ゴルフクラブはどのくらいの長さがいいのだろうか。まずドライバーについて言えば、飛距離とコントロールの要求の相反は明らかである。様々な理由から、クラブが長ければ長いほど、クラブフェースのセンターでスクエアに打撃するのが難しくなるのは明らかだ。また少なくとも一見したところでは、6フィートのシャフトの先にあるクラブヘッドの方が、3フィートのシャフトの先にあるクラブヘッドよりも速く動かすことができそうだということも明らかである。
しかし、このようなスピードの向上にはいくつかの疑問点がある。6フィートのシャフトは3フィートのシャフトの2倍以上の重さになるので、余分な重量のシャフトを振るために多くのエネルギーが必要になる。また空気抵抗もシャフトが長くなるほど増える。グリップからの距離が長くなるということは、ヘッドの慣性モーメントも大きくなり、これが2レバーモデルのスイングにどのような影響を与えるかは明らかではない。
そこで、シャフトの長さを変えることでどのような効果が得られるかについて、いくつかの研究が行われた。第一に、長さの異なるクラブを使用した場合の影響を、2レバーモデルでコンピューター計算を行い、第二に、長さ55インチ(通常より12インチ長い)のドライバーを作り、ゴルファーにそれを使ってショットを打ってもらった。
計算と実技テストの両方の結果から、ティーショットで最も飛距離が出る可能性のある長さは約4フィート(48インチ)であることが示唆された。それ以上の長さになると、ある種の抵抗が大きくなり、長さの利点が打ち消されてしまう。本書を書いている時点では、47インチのドライバーが作られたばかりで、予備テストでは、この長さがロング・ドライビングに最適に近いことが確認されているという。
実用的なテストでは、55インチのドライバーは、おそらくはシャフトの柔軟性(下記参照)の効果によって、通常よりもはるかに高い弾道を出した。その結果、ショット全体の長さ(キャリーとランの合計)はそうでなくても、55インチ・ドライバーで得られた平均キャリーは従来のクラブよりも長くなった。
ほとんどのゴルファーが、長尺クラブではボールをスクエアに正確に打つことが難しくなる(全ショットの約3発に1発がミスショットであったのに対し、普通のドライバーでは7発に1発であった)ことに気づいたが、そうでないゴルファーも存在し、それどころか通常使用しているクラブよりも真っ直ぐ打てる場合もあった。この現象については、55インチ・ドライバーは慣性モーメントが大きいため、スムースではないスイングで振ることが事実上不可能だったことに起因していると思われる。
非常に短いドライバー(37インチ、つまり通常の5番アイアンの長さ)を使ったテストでも、上記の結果が裏付けられた。このドライバーを試打したゴルファーは、非常に短いキャリーと低い弾道を出した。
32:4 実験用に作られたドライバー、左から55インチ、47インチ、43インチ(通常モデル)、37インチ。ゴルファーの実打によるテストでは、47インチおドライバーが最も飛距離性能に優れ、通常モデル(43インチ)よりも約10ヤードほど飛距離が伸び、55インチのドライバーはおよそその中間の飛距離であった。37インチドライバーではその弾道は低くなり、キャリーも落ちた。55インチと37イントの双方で、ほとんどのゴルファーがその制御に大きな困難を覚えた。
シャフトが飛距離と方向に与える影響
どのようなシャフトもスイング中に様々な角度で振動し、その程度はプレーヤーがシャフトをスイング中にどのように使っているかに依存する。ゴルファーによって同じシャフトの振動パターンが大きく異なり(第35章参照)、同じようなスイングをしているように見えるゴルファーでも振動パターンが異なるのは事実と思われる。これらの振動を正しいタイミングで発生させれば、インパクトでのヘッドスピードを速くすることが可能であり、逆にタイミングを間違えれば、ヘッドスピードが落ち、正確性も損なわれる可能性があることも確かである。
問題は、こうした影響がどの程度であるのかということである。
この質問には、実験によって導くこともできるし、理論的な計算によって答えることもできる。まず、実験から見てみよう。そこで明らかになったことは、まずフレックス(柔軟性)の違いは、どのクラブの場合でも飛距離にあまり影響しないということだ。フレックスが異なる3種類のドライバー(X、R、Lシャフト)を使ったテストでは、あらゆる技量のゴルファーがそれぞれのクラブでベスト・ドライブを打った際の飛距離はほぼ同じだった。これは、シャフトのフレックスの違いからは、どんなゴルファーでも最大限のドライブに5ヤード程度の差しか生じないという理論的予測を裏付けるものである。
しかしこの数字さえも、インパクト中にシャフトによってクラブヘッドが前方に走ることを想定しているため、おそらく過大評価である。技量のあるプレイヤーであれ、そうでないプレイヤーであれ、またシャフトのフレックスに関わらず、シャフトはボールが打撃される時点までの充分に前方にしなっていることを裏付ける多数の写真によるエビデンスが存在する。これについては第八章の8:2の写真でも確認できる。この場合、インパクトにおけるヘッドスピードが、シャフトのタイプによって受ける影響はゼロであり、得られる飛距離も変化しない。
しかし同条件下で、ドライバーの方向性に20ヤードもの変化が生じることはある。シャフトが前方にしなるということはフェースが閉じるということ、また後方にしなればフェースは開くということであり、しなりが1インチに対してフェース向きは2.5°変化する。これらの影響が最大限に大きくなった場合、反対側のラフまで曲がるフックやスライスが発生する可能性がある。しかしこのことは多くのプレーヤーが抱いている、「シャフトがしなるほどボールをコンスタントに打つのが難しくなる」というよくある疑念を立証しているだけである。
フレックスによるフィーリングとタイミングの変化
もしこれがシャフトにまつわるスト−リーのすべてだとすれば、シャフトの柔軟性によって得られるものは何もないということになる。しかしそうはならないのは、1mmもしならない完全に硬いシャフトのクラブというものは作られたことがない。一部のプロが使っている非常に硬いシャフトでさえ、ドライバーのスイング中にはかなり曲がり、振動する。
その理由はいくつか考えられる。一つは、クラブの「フィーリング」である。シャフトが硬ければ硬いほど、インパクトの衝撃が手に伝わりやすくなり、またワッグルやスイングにおいて得られるヘッド挙動のフィーリングは失われる。
従いシャフトのある程度の柔軟性は、ゴルファーにとって心理的に重要であり、スイング中のプレイヤーの反応に影響を与えるという意味で、ボールの打撃に際して機械的にも重要なのである。シャフトが硬すぎれば、クラブヘッドをスムーズにスイングすることも、インパクトでタイミングを取ることも難しくなる。
柔軟性がタイミングの助けになる
本書の序盤で、モデルに余分なヒンジを追加する可能性について述べたが、そのヒンジをモデルのアクションと必要なタイミングの中で正確に適用できれば、ストロークのパワーを少し追加できる可能性があると述べた。これと同様に、シャフトに柔軟性を持たせることで、シャフトの下部にヒンジとヒンジバックの効果を自動的に加えることができる。これにより、機械的なヒンジを追加することによる操作性の難度を伴うことなく、クラブヘッドにエネルギーを放出する基本的な2レバーの動作の効率多少向上させることができる可能性はある。
シャフトの柔軟性を変化させることの実際の主な効果は、最大のクラブヘッドスピードそのものを変化させることよりも、最大のクラブヘッドスピードが達成されるスイングの正確なポイントを変化させることであろう。
したがって、どのプレーヤーにとっても、シャフトの柔軟性(またはしなり)と動作のタイミングは統合された状態で機能し、相互に依存している。しなり大きいシャフトでは、しなりによってヘッドの挙動は実際の動作よりも遅れる余地が大きくなるため、ヘッスピードが遅い人に向いており、また反対に速くスイングをするプレイヤーには硬めのシャフトが向いていると思われる。しかし、どちらのタイプのシャフトも適切なタイミングでスイングされる限り、得られる飛距離はほぼ同じになる。
シャフトのしなりはフェースをスクエアにするのか?
その腕前の善し悪しに関わらず、ほぼ全てのゴルファーはインパクトでシャフトが1インチほど前方にしなっており、その結果フェースも(シャフトがしなっていない状態に比べて)約2.5°閉じる。この現象はストレートショットの場合でも起きており、このことから、シャフトが非常に硬い場合にはフェースがわずかに開くため、スライスを発生させると考えられる。ということはインパクトでフェースをスクエアにできないという一般的なエラーに対して、しなりの強いシャフトを使用することで対策になる可能性があるのではないか。
この疑問に関して包括的な解答を行うことは現時点では難しい。しかしパワーの弱いプレイヤーが、柔らかいシャフトから恩恵を得られるというエピソードと無関係ではなさそうだ。つまり、柔らかいシャフトほど前方にしなるために、フェースをインパクトでスクエアに戻してくることが容易になるということだ。
インパクトで前方にしなるということは、インパクトロフトも増える、つまり硬いシャフトよりも高いボールになるとも言える。おそらくこれが前述の長尺ドライバーで高いボールになった原因と思われる。
32:5 インパクトの直前に程度の差はあれ、シャフトは前方にしなる。これによりフェースはクローズになる。シャフトのしなりが大きいほどフェースがクローズになる度合いも増える。これがヘッドスピードの低いプレイヤーにはしなるシャフトの方が恩恵が大きいとされる一つの理由である。
個人の好みが最優先
読者諸君は、ここまでの議論についてすでにいささか戸惑っているかも知れないが、同様にストロークのタイミングに影響を及ぼすクラブのトゥ方向とヒール方向で発生している振動についてはまだ議論していない。しかしながら、シャフトの柔軟性に関しての問題を要約することはそれほど困難ではない。
プレイヤー独自の、フィーリングおよびタイミングへの要求と好みこそが最優先されるべきなのだ。どのようなゴルファーにとっても、シャフトの柔軟性が高いほど、インパクトの衝撃が「ソフト」に感じられ、クラブが手に当たる感触がより敏感になり、スイング中のタイミングの反応がより明確に感じられるようになる。その反面、少なくともフルストロークでは、クラブヘッドを連続したショットで一貫性を持った動作で操作し続ける事は困難になる可能性がある。
柔軟性と「ねじれ剛性 」
シャフトがその中心軸から捻れるのかについての議論もまだ行われていない。スチールシャフトとヒッコリーシャフトの主な違いは、スチールシャフトのねじれ剛性が大幅に向上していることである。ここでも、スイングのフィ−リングがソフトに感じられるほど、シャフトのわずかな捻れと同時に、クラブヘッドにエネルギーを提供し続けることが可能になる。
現代のスチールシャフトは、この種のねじれが非常に少なくなっており、フェースが捻れないことでストレートなボールを打ちやすくしている。しかし、それは同時に、オフセンターのインパクトによって生じるシャフトのねじれが、ヒッコリーのように低い捻れ剛性がクッションになる代わりに、衝撃を鋭く伝えることによって、手に「刺すような」衝撃をもたらすことを意味する。
ヒッコリーシャフトが持つオフセンターの打撃による衝撃を吸収する能力は、実際、スチールシャフトの導入とともにゲームから失われた資産の一つであると言える。あるイギリスのメーカー(J. H. Onions Limited. “Crookshank” clubs)が、スチールシャフトにグリップを空気圧の弾性層を設けて装着することで、このねじれの柔軟性を取り戻す方法を見つけたのは興味深い。その効果は、どんなショットにもソフトな感触を与え、オフセンターショットによる手の衝撃を少なくするものだ。
厚みの薄いグリップがスライスを治す?
グリップの厚みも、クラブのフィーリングやスイングのしやすさを左右する要因のひとつだ。太いグリップは手首の動きを制限し、スイングの2レバーモデルで言えば、2レバーの間のヒンジがまっすぐになりにくくなる。クラブヘッドはインパクトで手の後ろに遅れ、クラブヘッドをスクエアにするために必要な前腕のロールが手首の動きと一緒に自動的に行われる傾向があるため、フェースはおそらく「開いた」状態になる。
従い理論的には、太いピップはスライスを引き起こすはずであり、これも実験によってそうなるのかを確認する必要があった。ゴルファーがテニスラケットのようなグリップでドライバーを使ったテストでは、通常のゴルフグリップと同じ重さのグリップで、平均35ヤードの巨大なスライスが出た。
しかし、逆の実験、つまり通常よりも薄いグリップを装着した実験は行われなかったが、薄いグリップを装着することで手首のアクションがより活発になることは、フックを発生させる傾向になり、少なくともスライスを減らすための一つの手段にはなると考えられる。
32:6 テニスラケットのグリップを装着したクラブ。グリップの重量は通常のゴルフのグリップと同重量にしているため、ウェイトバランスは同じである。しかしグリップが太くなったことの影響で、手首のアクションが制限されたためにほぼ全てのショットでスライスが発生した。
大きなテーマの始まり
もちろん、本章で議論されてきたテーマ群は、今後の50年にメーカーが科学的に調査しているであろう、ゴルフクラブのデザインと機能の諸要因の一部に過ぎない。ゴルフクラブを作る上で可能な細かい設計上の特徴はほとんど無限にあり、それらはすべて互いに影響し合い、それを使うゴルファーとも反応する。
われわれは、まだ確固としたクラブ設計の方向性やルールを決められる立場にはない。とはいえ、将来の開発ラインについての暫定的な提案をすることは可能だ。次章ではその試みについて紹介したい。