セクション6:ボールが打撃される際に起きていること

22章 ゴルフの弾道学 インパクト時のフリーホイール

弾道学とは、発射された飛翔体の挙動に関する研究をさす。飛行中、ゴルフボールは砲弾と同じく飛翔体であり、そのためゴルフショットと長距離砲撃のあいだにはあきらかな類似点がいくつか存在する。ゴルファーと砲撃手の双方とも、何らかの手法によって射程と方向が推定されている目標物に飛翔体を着弾させようとしている。砲弾、あるいはゴルフボールの飛距離は、それらが発射される際の速度と仰角によって決定されている。

砲撃手とゴルファーの双方とも、発生しうる風の影響を認識しており、ライン及び角度を考慮する必要がある。しかしいずれの場合でも、ひとたび飛翔体が発射されたのちは、その飛行に影響を与えるためにできることはない。にもかかわらずゴルファーはボールを打った後に身体をひねる、クラブを振り回す、大声で叫ぶ等して、あたかも飛行中のボールを意のままに操れるかのようなリアクションをすることはよくあることだ。もちろんこうしたゴルファーがやっていることは、そのときの自分の感情を表現している以上の何ものでもない。ひとたびショットが行われたならば、ボールのコースは既に決定している。

しかし砲撃とゴルフにおいて使用される実際のテクニックおよび飛行のタイプはそれぞれ大きく異なっている。特に砲弾の場合は、空力的に優れる設計となっている上に、飛行ラインを軸として回転しているが、ゴルフボールは球体であり、かつ(少なくとも通常は)飛行ラインに対して直角の水平軸上を回転しながら飛行することを意図している。

しかし砲撃においては、砲弾が砲から離れた瞬間から空中を飛行している弾道についての研究である「外部弾道学」と、砲の内部において撃鉄が発火をしてから砲の外部に発射されるまでの挙動を研究する「内部弾道学」の区別があるのだが、これはゴルフにおける弾道学においても極めて有効に応用可能なものなのだ。ゴルフに言い換えれば、後者の弾道学を「インパクトの弾道学」と呼ぶことができるだろう。インパクトにおいてクラブフェースとボールが接触している非常にわずかで、有限の時間に発生する現象についての研究である。

22:1 二つの飛翔体の回転方向の違い。砲弾、あるいは弾丸は進行方向を軸とした回転を行っており、ここで発生するジャイロスコープ効果によって、先端が目標方向を見ている状態を維持し、また飛行を安定させる。ゴルフボールが正しく打撃された場合、進行方向に対して垂直な軸の回転となる。これによってボールには揚力が発生し、部分的に重力に対抗するフォースとなって飛行時間を増大させる。

ショットは0.5ミリ秒で決まる

インパクトの持続期間を「有限」と表現したが、これは明確に測定が可能な期間であり、この始まりから終わりの間に様々なアクションと反応が発生するのに充分な時間であることも事実である。このインパクトの最中には実に多くのことが起きるが、それは単純に非常に「速い」からである。

ほぼ全てのゴルフショットにおいて、クラブフェースが最初にボールにコンタクトしてから、ボールがフェースを離れて空中に飛び出し始めるまでの時間は、一万分の5秒(0.0005秒)しかない。パッティングのようなゆっくりとした穏やかなインパクトであってもせいぜい0.0001秒長くなるだけである。

飛びすぎ、ショート、スライス、チーピンあるいは完璧なショットなど、その後に起きる全てのことがこの非常に短い時間の中で決定されていることは、おそらくゴルフのゲームにおける最も驚くべき基本的事実と言えるだろう。

インパクトの長さ = ヘッドスピード100 マイルで 4 分の 3 インチ

しかしゴルフのショットは非常に短いインパクト時間で行われているだけではなく、また非常に高速でもある。ドライバーのフルショットではクラブヘッドはおよそ100マイル/時(44.44m/s)でボールを通り抜ける。この速度をそのまま計算したとしても、0.0005秒ではフェースとボールがコンタクトしてから離れるまで、わずか1インチ(2.5cm)しか移動していない。現実にはインパクトの衝撃によってクラブヘッドは減速しており、そのためボールと接触しているあいだのクラブヘッドの移動距離はさらに短くなり、3/4インチほどになる。

パットでは、インパクト時間は前述のとおりわずかに長くなるが、クラブヘッドの速度が遥かに遅いため、接触して移動する距離はさらに短くなる。およそ6フィートのパットを、ボール速度5マイル/時で打つ場合、その距離は1/25インチほどになる。

クラブヘッドとボールが接触し続けるこの距離を伸ばすためにゴルファーができることは何もない。ちなみに、アメリカサイズの 1.68 インチボールとイギリスサイズの 1.62 インチボールの場合でもほぼ同様である。

ゴルフの非常に短いインパクト時間枯れられる重要な結果の一つは、クラブヘッドとボールの間に加えられるフォースが、コンタクト開始時点のゼロの状態から非常に高いレベルまで電光石火の速度で上昇することである。例えば、フルドライブにおける総インパクト時間中にボールに加えられるフォースは、約1,400ポンドにもなる。コンタクト開始時点でゼロからフォースが増加していき、ボールセパレーションで再びゼロの状態に低下することを考慮すると、このような高いレベルの平均値を達成するためには、ピーク時のフォースはおそらく2,000ポンド、つまりほぼ1トンに相当する必要がある。

クラブの末端にかかる1トンのフォース

インパクトのほぼ爆発的とも言える、巨大なフォースが超高速で作用している際に、クラブヘッドがどのように動作しているかは、クラブヘッドがボールを打撃する際の状態についてのある非常に重要な事実を明らかにするものだが、これは多くの経験豊富なゴルファーのプレイに対する信条と矛盾するものである。

ゴルファーの大半は、インパクト時の手のアクションによって、何らかの方法であれクラブヘッドをボールに押しつけているという強い主観的感覚を有しており、ボールに与えられる打撃の感触を指で感じていると考えている。

これは実は完全な幻想であるいっぽう、我々が強くそのように「感じて」いることは真実である。もちろん、我々はインパクトを両手で感じているが、それはシャフトの柔軟性によって遅れて感じたものであるため、我々が何らかの手応えを感じるころにはボールはすでにクラブフェースを離れてしまっている。シャフトの柔軟性はフォースの急激な上昇と下降を分散させ、また和らげるが、これがおそらく、ある程度の時間クラブフェースにボールを保持していると感じる感覚を説明するものである。しかしボールの打撃に際して我々がどのようなリアクションを両手に感じるとしても、クラブとボールとの間に何が起きているのかについての研究には完全に無関係なのである。

インパクト時の両手のリアクションはショットに影響を与えない

ゴルファーが両手にインパクトの反応を感知する際に、それがどの程度遅れているのかについて数値で示してみたい。インパクトの衝撃がクラブの下部のネックからグリップ付近まで上昇して伝わるには、インパクトの総時間よりもわずかに長くかかる(インパクト時間が0.0005秒であるのに対して、0.00066秒)。

これがグリップを介してゴルファーの指に伝わり、クラブヘドの減衰および減速の双方に影響与える頃には、ボールは明らかに飛んで行っている。

さらに、そのメッセージが指から脳に伝わるまでには、少なくとも0.01秒がかかる。従い、ゴルファーがインパクトを感知するころにはボールは1フィート以上もフェースを離れてしまっており、それについて何かができるということは起きえない。またゴルファーの脳がそのメッセージに反応し、何らかの命令を両手に送り返して実行に移すには、0.2秒が必要である。これはインパクトの持続している時間の、実に400倍以上の長さである。この時点でボールは15ヤードほど離れている。

従い、インパクト中にボールに対して意識的な何かを実行すると言うことに関するかぎり、プレイヤーは紐の先に付いたクラブヘッドをスイングしているのと同じようなものかもしれない。

少し違った観点から議論をしてみても、いきつく結論は同じものである。ボールとのインパクトによってクラブヘッドがシャフトに押し戻されるのはわずかにコンマ数インチだけである。シャフトをこの量だけ曲げるのに必要なフォースはわずかに数ポンドである。逆に言えばこの後方に曲がった状態のシャフトがクラブヘッドにかけているフォースも数ポンドということになる。よってインパクト時にシャフト(あるいはプレイヤーの手)によって、インパクト中にクラブヘッド、あるいはそれを通じたボールに投入できるフォースもこれが上限であり、インパクト中にクラブヘッドからボールに作用している1トンものフォースに比べればほぼ無視できる小ささである。このことはインパクト時に発生する抵抗の全ては、実質的にはクラブヘッドの慣性によるものであることを意味する。つまりインパクトの瞬間その時点ではプレイヤーに伝達されるものではないことになる。

この事実は、ゴルフのスイングとクラブ設計の双方に影響を与える重要なポイントであるため、研究チームは、インパクト時にクラブヘッドとシャフトが固定されていない状態での直接的な実験によって確証を得る必要性を感じたのである。

この実験は、ヘッドのすぐ上にヒンジをつけてシャフトと連結した、この実験のために特別に作られた2番ウッドを使用して行われた。インパクト時、ヒンジの存在によってシャフトからのエネルギーを伝達できないため、ボールはクラブヘッド単体で打撃されることとなる。

22:2 シャフトが折れてしまったわけではない。ヘッドのわずかに上部に、ヒンジを取り付けたものである。実験では、このクラブと通常のシャフトのクラブではほぼ無視できる程度しか飛距離が違わなかった。この事実によって、インパクト中のクラブヘッドは、あたかもシャフトにつながっていないかのように自由に運動している物体であるはずだという仮説が証明された。

実験では、この特殊なクラブを使用して30ショットを打ったのち、通常のシャフトを使用した同様の2番ウッドで再び30ショットを行い、その飛距離を比較した。ヒンジ付きのクラブの平均飛距離は215ヤードで、通常のクラブのものと比較して5ヤード短いだけであった。

この5ヤードの違いすらも、ヒンジ付きのクラブでインパクトを行うという基本的な変更が原因であると考えられる可能性はほとんどない。それよりも単純にヘッドスピードが減少したからと考えるのが妥当であり、その理由はヒンジの追加による余剰重量の結果、あるいはテスターのゴルファーがそのクラブの構造に違和感を感じたことからスイングがやや慎重なものになったからである。

いずれにせよ、この実験結果は科学者を大いに満足させ、その仮説「インパクトの間、クラブヘッドはプレイヤーから完全に断続させられているかのように動作する」ことを証明するものであった。

22:3 ヒンジのついたクラブによるインパクトのハイスピードカメラ映像。クラブヘッドは自由に俺曲がる構造であるにも関わらず、インパクトを通じて後方に折れ曲がることは発生しなかった。ちなみにこのウッドはもともとクランクネック構造であり、ヒンジのついていない通常のシャフトを挿した状態でも同様のデザインである。

インパクト中のフリーホイーリング

プレイヤーがインパクト中に何らかのポジティブな影響を与えることができないという事実がもたらす重要な結論は、「飛距離を生み出す上で重要な唯一の直接的要因はクラブヘッドスピードのみである」ということである。時速100マイルのクラブヘッドでスクエアにボールにコンタクトした際に生じる飛距離は、それが加速中の100マイルであろうと減速中の100マイルであろうと、定速の100マイルであろうと同じである。

ただしクラブヘッドの最大速度に速すぎるタイミングで到達してしまうという一般的なエラーを犯さない限り、インパクトを通じてクラブヘッドを加速するという感覚がゲームに貢献する可能性はある。またある種のショットに関して、とりわけショートパットなどにおいて、インパクトに向けてクラブヘッドを実際に加速させていくことで、フェース面がオフラインになる傾向を予防する効果があるということも事実かも知れない。これらが事実である「可能性」はあるが、ここでその点について議論を行うつもりはない。しかしクラブヘッドをインパクトを通じて加速することで、純粋なヘッドスピードによって得られる効果を超える何らかの影響を及ぼせるというのは、明らかに事実ではない。さらに言えば、あらゆる種類のフルショットにおいて、インパクトを通じて加速を行うといった行為は、そのエネルギーがより早い段階で投入されていれば、インパクト時により大きな速度を得られていたはずであることから、無駄な努力の兆候と言わざるを得ないのである。総論として、クラブヘッドがボールに到達するまでに、全ての主要な努力は費やされているべきなのである。

かくして、インパクトにおける弾道学をあらゆる視点から考察するにしても、プレイヤーがフォワードスイングでクラブヘッドをインパクト付近の数インチの地点にスイングを行った時点で、そのクラブヘッドはもはや独立した飛翔体に変化しているという避けられない結論に到達するのである。それはもはやクラブヘッド自身の慣性のもと、それまでにプレイヤーやグリップを通じてクラブに入力された、その後に発生するあらゆる関連要素のもと決定された経路に沿って、ただ自由に飛んでいく物体でしかないのである。

実質的にプレイヤーは、そのスイングハブに沿った軌道にクラブヘッドを載せることはできても、ボールにコンタクトする頃にはそれは自立した存在となっているのである。

R.T. ジョーンズ ・ジュニアは1920 年代に、常にインパクトを通じて自分自身が「フリーホーリング」しているように感じていると行ったが、プレイヤーに起きている真実の状況をこれ以上うまく要約することはできなかった。どのような男性、あるいは女性のストロークであっても、ゴルフボールの弾道を決定する全ての影響をもたらす要素は、彼もしくは彼女が実際にそれを打撃する前には完了しているのであり、従いこの時点までにクラブヘッドに投入されていなかったどのようなエネルギーも、実際のショットに何らかの影響を及ぼすものにはならないのである。

クラブに仕事を任せる

ボビー・ジョーンズのインパクトを通じた「フリーホイーリング」の感覚が指し示すものは、彼はこのことを本能的に感じ取ることができた数少ないゴルファーの1人であり、彼がインパクトを迎えるまでにクラブヘッドの全ての労力を投入し、後はクラブヘッドのそのストロークの全てを任せることに成功した人物であったということである。プレイヤーが何を感じ、考えるとしても、それが意図することの全てである。

従いゴルフスイングにおいては、二つの完全に独立したアクションが存在する。ゴルファーができることは、インパクトに先立って可能な限り速く、正確にクラブヘッドを動かすことだけであり、それ以上にストロークに影響を与えることはできない。クラブヘッドは、既にプレイヤーのスイングによって与えられた速度と方向に航行し、この世界を支配している運動の法則に従って、自由な単体として、自立した状態でボールにコンタクトするのみである。

毎週のように、世界中の何千人ものプロが繰り返し唱えている、ゴルフの最も古いことわりの一つに「ただスイングするだけさ。あとはクラブに仕事をさせるんだ」 というものがある。

なんて彼らは正しいのだろう。

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