第二十一章 グリーン上の科学(4)

パットをミスする理由

そもそも我々がパットを逃すのはなぜなのか?短いパットだけではなく、どのような長さのパットにおいてもである。この問いに自問することがなければ、その解は永久に見つからないだろう。希代の名手でもほぼ外す30フィートのパットが入らないことは、恥ずべきことではない。しかしそれをカップインさせようと考える場合、それを外すときの物理的な理由が存在するはずである。

現実にいくつかの妥当な要因が考えられるが、その重要度はパットの長さによるものである可能性が高い。パットの技術を向上させるには、その本質を定義することと、そのためにどのように、あるいは何を練習するべきなのかを知る必要がある。

それら要因は以下の4つに要約することができる。

  • 正しい打ち出しラインを見極められなかった(判断ミス)。
  • ボールを正しい方向に打ち出せなかった(実行におけるミス)。
  • ボールがカップに届かない、あるいは大幅−にオーバーしてしまうといった距離感に関するエラー(判断と実行の双方のミス)。
  • グリーン上における、何らかの容認できないレベルの、ランダムなイレギュラー要素。

全英オープンのウイニングパットと言わずとも、クラブ競技や月例競技の勝利がかかった場面で、ほぼカップインを手中に収めたパットをミスしてしまうことがあるのはご存知の通りだが、それらは単に上記のいずれかのミスを犯しているだけである。

要因(1)(3)については、完全にフラットな状態のグリーンにおいてのみ分別が可能となる。しかしそうではない場合、これらの要因が相互に影響していると考えられる。とはいえ、ミスを二つのカテゴリーに分類して考えることは有効である。すなわち、パターをバックスイングするよりも前に、つまりパッティングの判断を含めて発生したミスであるのか、ストローク中、つまりパターのミスアライメントを含めて発生したミスであるのかということである。

グリーン上の隆起がパッティングに与える影響

しかし、ここではまず(4)の要因、つまりプレイヤーが完全にコントロールすることができない要因について考えて見たい。同じ場所から、同じ方向に、理想的な方法でパットを数回打ったとしても、必ず同じところに転がり付くわけではないことは事実である。グリーン上には細かい隆起が存在するからだ。

研究チームは、既に紹介したパッティングマシーンを用いて、この影響がどの程度大きなものであるかを調査した。グリーン上における轍の影響を避けるため、この実験ではカップにボールをパッティングしたものではない。しかしカップインに相当するか、ミスになるかを様々な距離で集計し、プロゴルファーのパフォーマンスとの比較を行い表にしたものが以下である。

この数値はかなり良好なコンディションのグリーンでのものである。グリーン状態が悪化するほどマシーンの数値は低下し、プロゴルファーにおいてもそれは同様だった。一方ビリヤード台において実験を行うと、マシーンはほぼ100%の確率でカップインさせた。

この数字が意味するところは何か?

まず、6フィート以下のパッティングをミスした場合、それがグリーン状態の影響によるものということはほとんどないということである。そしてミスの要因としての(1)(3)のうち、それらはほぼ(1)(2)、つまりラインの判断ミスか、実行ミスの複合的な結果であるということだ。どちらの原因である可能性が高いかについては後述する。

長距離のパッティングにおいては、三つの要因が発生しているかに関わらず、ミスになる可能性はとにかく高くなると言える。現実的にはロングパットが入るのはほぼ「まぐれ」である。もちろん10ラウンド当たりのロングパットのカップイン確率が、他のプレイヤーに比べて高いというプレイヤーが存在することを否定するものではない。そのプレイヤーはおそらく、(1)(3)のエラーを発生させる確率が低いというだけのことだ。しかしその一方で、どれだけラインを読み切って正確なパッティングを行ったとしても、それがカップインするかどうかは偶然によるものであるというのが事実である。

中間距離のパッティングの数値から我々がわかることは何か。それは奇跡を期待してはいけないということである。非常に良好なグリーン状態である場合を除き、20フィートのパットは完璧なストロークを行ったとしても半分はカップインしない。それは他のどんなプレイヤーもそうである。

判断と実行のどちらのミスか?

短いパットの際に、判断あるいは実行のどちらのミスがより重要であると言えるのだろうか?

研究チームは6フィートのパットでゴルファーを対称にテストを行った。何百人ものゴルファーが、同じ6フィートのパットの機会を与えられた。ラインの判断のみがカップインしなかった原因であった場合、最初のパッティングから得られる情報が多いために、最初のパットよりも2回目のパットでカップインできる可能性が向上すると考えられる。同様の改善が期待できることにより、ミスの度合いが三度目、四度目、五度目と減っていくこととなる。

いっぽう、ミスの原因がストロークの実行によるものだけだった場合、その後のパッティングにおける改善はわずかであるか、まったく見られない場合もあった。

もちろんこれら二つの選択肢は、状況を極端に単純化し過ぎている。心理的状況も結果に影響を与えている要因となっているだろう。通常プレイヤーは、五度目のパットを一度目とパットと同じ方法で行うとは考えにくく、興味を失ってしまう場合もあれば、逆にそれまでの全てのパットを外した状態であれば、緊張感が蓄積された状態になるかもしれない。

この実験では、連続して行うパットに改善が見られたことは事実だが、それほど目立ったものとは言えなかった。例えば、1966年にミュアフィールドで開催された全英オープンで実施されたテストに参加した4,000人の観客のうち、やや曲がる6フィートのパットを33%1回目でカップインしたが、2回目では38%、3回目以降のカップイン確率の上昇率は減少し、5回目で43%になるに留まった。チームの結論は、両方の単純な種類のミスエラーが6フィートのパットをミスする要因であるというものだった。選択されたラインにボールを打ち出せなかったことがショートパットをミスする主な原因であると考えていた参加者にとって、これは小さな驚きであった。(しかし18インチのパットをラインの判断ミスで外すことはない。)

しかしながら、プレイヤーのマインドとして、二つの種類のミスを分離して考えることは不可能かもしれない。例えば、有るプレイヤーは3フィートのパットを左に引っかけることによってミスをするかもしれない(実行におけるエラー)。しかしそれが起きた真の原因は、そもそもそのプレイヤーが最初にラインを正しく見極められたかどうかに対して不安を感じていたからかもしれない(判断ミスの疑い)。

これらの複雑性があるとしても、パットをミスした理由を発見するための努力を惜しまないことは、熱心なゴルファーにとって何らかの価値があるはずである。つまり、ここで説明した方法で自分のパットをテストしてみることだ。もし2回目のパットで1回目のパットよりも成功率を上げられないのであれば、カップへのラインやグリーンの速さを考慮することに固執することをやめ、パッティングストロークの練習を行うべきである。もし2回目のパッティングにおいて著しい確率の向上が見られるのであれば、上り下りの読みや、グリーンの速さの判断の方法をチェックすべきである。

最初に、明らかな上り下りのあるパッティングにおいて、カップに対してショート、オーバーどちらの傾向が強いのかを確認すべきである。ミュアフィールドにおける実験に集まったゴルファーで言えば、オーバーよりもショートしたパットの方が、二倍ほど多かった。全てのレベルのゴルファーにおいて、上り下りを過小評価する傾向が見られるが、ハイハンデのプレイヤーよりもローハンデのプレイヤーほどこの割合が少なくなることがわかっている。従い、伝統的に言われている「アマチュアサイド」と「プロサイド」といた区別には、何か特別なものがあるように見えるが、実際には傾斜の読みの量の程度の問題である。

経験を積むということ

パットの読みは非常に複雑なスキルであるが、基本的には過去の練習、ラウンド、および類似の状況から構築される膨大な経験則からの引用である。例えるならば、ゴルファーのコンピューターのメモリには過去のパットのデータが蓄積されており、新規のパットに直面したときに、これらの記録のデータを利用して必要菜再計算を行い、そのパットのメカニズムが進行するようにセッティングを行っているわけである。

それが型にはまったものではないのは、まったく新しい状況に直面したときでさえゴルファーの脳はその推論力を利用して、対応ができると考えられるある種のショットを再生するからである。しかしそのような場合でもその推論は、ゴルフに限らず、そのゴルファーが慣れ親しんできた類似の状況を引用して行われている。

例えば、もしこのプレイヤーがグリーン上に来て、高さ1フィートで3フィート四方の石版の上部にカップが切られており、かつその側面が垂直であったとしたならば、過去にそのような状況に直面したことがなかったとしても、彼の脳は即座に「これをカップインさせることは不可能だ」と感じるはずだ。いずれにせよかこの類似の経験を引用して対応を決定、あるいは活用を行うはずである。

よってパットを習熟するということは、一部としては単に経験を積むということに他ならない。そして控えめに言って、その経験則が可能な限り成長するような方法で練習をすべきであるという主張は妥当なモノ絵あると言える。つまり、通常のゴルフボール、通常のパター、通常のグリーンで単純な練習を行えば良いというわけではなく、急斜面を含む様々な斜面、また非常に滑らかな状態から非常に荒れた状態まで様々なサーフェスのグリーンで、あるいは時にはテニスボール、クリケットボール、ビー玉などいろんな種類のボールで練習をしてみることだ。もちろん競技の前日にこうした練習をすることはお勧めできない。

ここで言っていることはいくらなんでも馬鹿げているかも知れないが、体育教育の多くの専門家によって、ゴルフの能力開発における一般的な意見として提唱されているものである。パッティングの分野においてこれが効果を見込み得るのかについての詳細なテストはまだ行われていないが、例えば二つの完全な初心者グループを用意して、このような方法でパッティングを練習したグループと、一般的な練習を行ったグループとの間で、どのような能力向上の違いがあるのかを実験をすることは非常に興味深いと考えられる。

 

森美穂選手お誕生日おめでとー!(インスタの写真の食材は誕プレではありません)

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