あいかわらずSPSの文章は信じられないほど冗長で一文も長いのですが、今回の文章は主張としては重要なので先にざっくりまとめると
・クラブヘッドの運動状況、位置情報をストローク中に「感知」出来るのは右手である。
・どのような時にどのような結果になるのかを「学習」することは、右手によって得た情報を蓄積することと同義である。
・これら情報をもとに、プレイヤーは常に細かい「修正」を行いながらプレイしている(全く同じ状況は実際のラウンドでは発生しないので)。
という感じです。このあたりの「右手がアンテナ」という発想はTGMでも共通なのでおそらくそうなのではないかと思います。ではSPSのまだるっこしい文章を存分にご堪能ください。
Table of Contents
第十二章 右手 – その知覚、制御、および学習
ここまで議論を進めてきたことで、モデルの動作を最も機械的かつシンプルに再生するための注意点、また両手首のアンコックとフェースを目標方向にスクエアに向けることは、最も直進性が高くパワフルなショットを行うなかで、正しい比率で自動的に発生するということについて考える段階に達したと思われる。
このことは、おそらく多くの人がそう感じているように、科学的にも真実である。しかしだからといって全ての人がそれを実行に移せるということにはならない。あるゴルファーがこのことを理解しているとしても、時としてスライスし、時としてフックし、あるいはそれらが交互に訪れる。
このような現象は確かに事実であるものの、アンコッキングとフェース管理の比率の真実に何ら影響を与えるものではない。つまりプレイヤーがおおよそモデルの動作に近いスイングを行っているとしても(おそらく本質的にはそれが出来ていないのであるが)、ボールを再現性を持って打撃出来るスイングを習得しているということにはならないのである。
人間の全ての動作には、多かれ少なかれ「学習」というものが必要になる。小さな子供がマグカップに入ったミルクを口に運ぶときにこぼしてしまう、あるいは自転車や車に乗り始めのとき、人々はどうすればそうした行為を正確かつ再現性をもって行うようにできるのかを、ひたすらトライ&エラーを繰り返しながら自分自身に教えていくことが必要となる。
このことには経験から学ぶこと、また効果的な組合せが見つかるまで様々なバリエーションを実験すること、そして想定した動作が正確に行えるように調整する能力などが含まれるだろう。これが、様々な要素の動作を組み合わせて最もシンプルかつ効果的なアクションに落とし込むことを学ぶプロセスである。
ゴルフへの応用
このことは「フィーリング」、「タッチ」、そして経験から学ぶ能力を要求されるプレイヤーの全ての動作が、ゴルフボールを正確に打撃することに直結していることを意味する。そして最終的に習得される技術はまた、その動作に何らかの問題が生じているとしても、ほぼ無意識にそれらを修正していく能力をも必要とする。
これは、自分が何をしようとしているのか、つまりそのプレイヤーが最も妥当と感じられるシンプルなスイングを実現するために、経験から学習していく能力、そしてもう一つは、存在する問題に対して半ば本能的に自動的な修正を加えていく能力ということになる。すなわち習得した方法に介在する障害、あるいはその方法の実行に関する問題への対応、そして最も一般的なケースとしては、特別な状況のライへの対応や、特殊なバリーエーションを使用する必要があるショットなど、ゴルフというゲームにおいて個別のショットに加えるべき制御を可能にするものである。
ゴルフを学習する上での右手の役割
これら全ての状況において、右手および右腕はゴルフをプレイする上で特に重要な役割を担っている。
通常の右利きのプレイヤーにとって、右手は最も技術的に訓練をされており、また感覚に反応する能力に長けている。とりわけバックスイングの最中において、右手はクラブヘッドの位置および動作についての情報を脳に送り込むためのほぼ疑いのないメインルートなのである。
現実的には、ひとたびダウンスイングが始まってしまえば、そこから得られるいかなる情報に対しても何らかの反応、あるいは修正を行う時間は脳にはない(詳細は17章にて)。つまりこの状況下では、このままショットを進行させればどうなるかを過去の経験から得られた情報をもとに予測を行った上で、現行のスイングの動作に変化を起こすことしか出来ない。
しかしこのことは、ボールを打撃するまでに本能的にスイングに対しての修正が間に合うタイミングでの反応、つまり充分に早い段階で得られた情報に対する反応のみが可能であるということを意味する。
これは実際に、スイングの始動でバランスを欠いていたにもかかわらずナイスショットが可能なプレイヤーのプロセスでもある。もちろんこれまでのプレイの経験から、例えば似たようなスタンスからのプレイの経験が適切な修正を促した結果であるかもしれないし、あるいはスタンスの修正を行ってバランスのコントロールを可能にした結果かもしれない。
いずれにせよ、右手はこのときの脳とスイングの感覚を常に連結させる機能を担っており、またショットの結果の善し悪しに関わらずその情報を未来のショットのために「ファイル」しておく機能を担っている。もちろんボールのインパクトを通じてクラブヘッドをスイングする動作は、全身全霊を費やして行う両手の操作に他ならない。しかしここにおける「フィーリング」を学ぶ事は、とりわけショートショットにおいて、大きく右手、右腕の能力に依存しているのである。
またこのことは、プレイヤーが可能な限りモデルに近い動作を再現しようとする際、そのプレイヤーが使用しているグリップの本質性によってその重要度を増すのである。プレイヤーがクラブを右手の指でグリップしているほど(フィンガーグリップになるほど)、左手のグリップをパームで握ることに対して優位にはたらく。右手のグリップが適切な状態で握られているほど、クラブに対する物理的な制御能力が向上するだけでなく、クラブの位置情報に関しての感覚も増すのである。
このことはおそらく、なぜパッティングにおいてリバースオーバラップグリップを採用するプレイヤーが多いのか、またなぜ一本の腕でプレイを行うプレイヤーが、ショートゲームにおいてはフォアハンドの打ち方をするのか、また、両腕のプレイヤーが一本の腕プレイすることを求められた際、ピッチショットやパットは右手のフォアハンドで行う一方、ロングショットに関しては左手のバックハンドで行う方が飛距離が稼げるのかにも関連する。技術や感性に優れている手、つまり右手は、ストローク中に指を通じて情報を集め、ストロークの制御を行っている。このことによってクラブヘッドのスピードやポジションについての必要な情報を精密に感知し、操作することで全体のオペレーションを行っているのである。
逆に言えば、右手から何らかの「タッチ」や「フィーリング」の情報を感知せずにプレイをしている場合、バックスイングの初期に発生している何らかの問題に対して適切な修正を行えない傾向が強くなり、その結果も望ましくないものになる可能性が高いと言うことになる。
これが非モデル的スイングの手法を採用しているゴルファーが、実際のショットにおいてほぼ成功しない理由でもある。こうしたプレイヤーもまたどうにかして良いプレイをしようとしているのだろうが、それが一貫性のある難しい方法になっているということである。つまり右手からタッチや感性の情報を得る事なく、それらを経験則として学習を積み重ねることなく、時として偶然のナイスショットが出たとしてもその正確性が上級者のそれに近づくことがないという具合である。
そのプレイヤーの右手と脳は共同して目前の状況に対して最善の結果となるように努力しており、可能な限りの結果を出す能力はある。このプレイヤーに欠けてしまっているのは、自身に正しい質問を投げかけることと、正しい経験を積むということである。
モデルタイプスイングを習熟させていく上で重要なことは、伸びしろのあるゴルファーに対してたくさんの新しい質問を投げかけることであり、またその解に近づくためのいくつかの実験をおこなっていくことで、将来のゲームをより一層簡単なものにしていくための経験を積むことである。
我々はいつでも修正を行っている
しかしながら、右手と脳の連携がプレイヤーのストロークのメソッドにおいて効果的な修正を行う方法は無数にあり、またそれらをボールを打撃する際のルーチンに組み込むということは、もしそのプレイヤーが彼のスイングをよりシンプルなものにしたいと願うのであれば、ストロークを行う際の初見の段階においてそれら修正や問題の除去を極力行わないことも心がけなければならない可能性がある。
世界中にあるコースでプレイを行う、少なくとも75%のゴルファーは、これら持って生まれた修正能力、あるいは持って生まれた不安要素を活用しながらプレイをしているのであり、これはローハンデのプレイヤーも例外ではないばかりか、彼らはそうした修正を的確に、正確に、成功裏に行う能力に長けているのであり、それ故にもはやそうした修正を必要としない状況になっているとしても、それをしないということが最も難しくなっているプレイヤーである。
とはいえ、こうした修正能力を、完璧なショットを志すゴルファーの妨げとなるものとまでみなす必要はないだろう。実際にはその逆であり、これこそが単に「ボールを打つ能力」から進化した、「ゴルフをプレイする」ことの重要なエッセンスであるのだ。
モデルスイングを毎回完全に再現できるプレイヤーが存在するならば、疑いなくそのプレイヤーは完全に水平なティからプレイをできる限りチャンピオンになれるだろう。しかしそのプレイヤーが「ゴルフをプレイする」ことに長けているかは別問題となるのは、現実的にはライが常に同一で有ることはあり得ず、何らかの点でその次のショットとは異なっている。もし両足のどちらか一方が他方より半インチ高くなっているだけで、そこにはスイングの調整の必要性が発生し、脳はその情報を感知し、過去の経験に基づいて修正案を指導して、スイングを変化させなければならない。
人間のゴルファーがこれを可能な限りうまく行うためには、ストロークのメソッドから不必要な複雑性を排除することが必要であり、結果としてはスイングにおいて「永続的な」修正を組み込むことが必要となる。もしそうした細かい「その場しのぎ」の調整が必要であるとしても、プレイヤーのメソッドがモデルのものに近づくほど、最善のボールを打撃することが容易になるのである。