Table of Contents
一般的なクラブの重量
ゴルファーが使用するクラブの重量の関係について、もう一つ基本的な点をここで述べておく必要がある。それは、あらゆるクラブヘッドの重量は、ゴルファーのスイングにおける二つの相反する力学的ニーズにおける妥協点であるという事実である。
ゴルフスイングのエネルギーがその主な源(身体と脚)からボールに伝達される方法には、エンジニアが言うところの2つの極めて重大な「ミスマッチ」が存在する。クラブヘッドのエネルギーを最大限にボールに伝えるには、クラブヘッドとボールの重さが同じでなければならない。しかし同時に、人間が作り出した最大量のエネルギーをクラブヘッドに送り出すためには、クラブヘッドには少なくとも数ポンドの重量が必要になる。
例えば、ハンマー投げの名手が16ポンドのハンマーの「ヘッド」に込めるエネルギー量は、ゴルファーがクラブヘッドに与えられるエネルギー量の約10倍である。しかし、このミスマッチのせいで、ハンマーは(ゴルフボールを打つような形であったとしても)、クラブヘッドが秒速210フィートでボールを飛ばすのに比べ、秒速130フィートほどでしかボールを飛ばすことができない。このときクラブヘッドのエネルギーの約42%がボールに伝達されるのに対し、16ポンドのハンマーのエネルギーの伝達量は2%にも満たない。
従って、どのクラブヘッドにとっても最適な重量は、人からクラブヘッドへエネル ギーを伝達するための最適な重量と、クラブヘッドからボールへエネルギー伝達するための 最適な重量との間の妥協点を常に含んでいることになる。
効率よくスイングすればするほど、その妥協点は、クラブヘッドからボールへのエネルギー伝達量を最大にする方向に傾くことになる。ゴルフの簡単な用語に変換すれば、この事実は、最大飛距離を得る目的であれば、優れたプレーヤーほど、彼のドライバーを軽くする必要があることを意味する。確かに証明されたとは言えないが、理論と合理的な議論はそれを示唆している。
ちなみに、先に述べた(付録Ⅱで説明した)ロング・ドライビング・ティーは、クラブヘッドの重量を減らすことなく、クラブヘッドからボールへのエネルギー伝達を改善することによって機能する。
特定のライからボールを可能な限り遠くに飛ばすための道具である、ドライバー、フェアウェイウッドやロングアイアンは別として、セットのほとんどのクラブは、正確で、予測可能で、一貫性のある打撃とボールコントロールのために設計されていることが必要であり、ロフトによって想定される最大限の飛距離を求めるものではない。従って、他の多くの要素が、それらのクラブの最適な重量と設計に影響を与える可能性がある。これらの要素がどのように適用されるかは、この章の残りの部分で説明する。
クラブはどのように配分されるべきか?
ここまでは、ボールがクラブフェース上のクラブの重心と一直線上にある点で、スクエアな打撃を行った際に何が起きるのかについて考えてきた。しかし第19章で詳しく説明したように、この「スイートスポット」外して打った打球は、ボールと接触している間にクラブフェースがねじれることで、ショットを意図しない方向に曲げてしまうことになる。
ゴルファーは、毎回コントローラーのボタンを押すようにショットしているわけではなく、わずかにオフセンターの打撃を行う割合が多い。従い、このような際に、クラブヘッドはできるだけねじれが少なくなるように設計される必要がある。
実際には、これはクラブヘッドの慣性モーメントをできるだけ大きくすることを意味する。この章の前半で見たように、慣性モーメントは物体が回転する際の慣性抵抗の尺度である。大きなフライホイールは慣性モーメントが大きく、動き出すのも難しいが、一旦動き出すと止まるのも難しい。
このように、重さは慣性モーメントを大きくするのに役立つが、それがすべてではない。重量の配分も重要だ。重量の大部分が回転軸から離れれば離れるほど、慣性モーメントは大きくなる。したがって、重量がリム(タイヤ側)に集中している自転車のホイールは、同じ大きさで総重量が同じ平らな円盤よりも慣性モーメントが大きくなる。
ゴルフクラブの回転の中心は、少なくともボールと接触している短い間は、クラブヘッドの重心である。したがって、オフセンターの打撃によってクラブヘッドが可能な限りねじれないようにするには、クラブヘッドをできるだけ重くし、その重量をできるだけ重心から遠くに配分する必要がある(もちろん、どちらも、例えば、最適重量など、設計における他のニーズによって設定された制限の範囲内ではあるが)。第21章で提案されているパターヘッドのデザイン(図21 : 5)は、まさにこのような考え方から生まれたものである。
図32:1 良くない重量配分(a)と、有利な重量配分(b)。オフセンターの打撃になることでインパクト時のフェースにはねじれが生じるが、重量が中央付近に多く配分されるほど、ヒール・トゥに配分した場合に比べ、パワーのロスが増え、曲がりも大きくなると考えられる。
このような観点から見ると、ある広告にあるように、「科学的にボールの後方にウェイトを置くことで、毎ショットの飛距離を伸ばす」というアイアンのクラブ設計は、物事を全く間違った方向に導いていることになる。少なくとも、理論的には、ゴルファーは図32:1の(a)のような形状のクラブよりも、 (b)のような形状のクラブの方が、まっすぐで良いボールを打てるはずである。両者は同じ重量、同じ重心位置であるので、クラブフェースの中心で打撃を行えば同じ飛距離になる。しかし、(b) は慣性モーメントが非常に大きいので、ボールが芯を外れてもねじれにくく、飛距離と精度が落ちることは少ないだろう。
(b)のような設計が他にどのような効果をもたらすかは、ゴルファーと同じようにクラブをスイングする機械で、管理されたテストをしなければ、正しく知ることはできない。そのような機械はこの国には存在しない。例えば、(b)の形状の中間部分が薄すぎると、ショットの飛距離をロスする影響をもたらすほどインパクトで「たわむ」かもしれない。また、ゴルファーにとって主観的に重要な、例えば、クラブフェースからのショットの「フィーリング」など、他の効果も関係するかもしれない。これらは、実際のプレーの経験によってのみテストすることができる。
図32:2 クラブヘッドの重量配分の実験。この実験用5番アイアンではバックフェースの溝に沿って、クラブのトゥとヒールに重量を付与している。
木製クラブにおける重要な重量配分
この思考を木製クラブのヘッドの形状と重量配分あてはめると、はるかに広い可能性が出てくるのは、通常木製クラブのヘッドはアイアンよりも大きいので、重量配分を調整する余地が大きくなるからだ。そのクラブ独自の特殊なショットの傾向を組み込むこともできる。
例えば、クラブのフェースを凸カーブではなく、プレーンストレートにし(第19章参照)、図32 : 3のようにウェイトをはるか後方でヒール近くに集中させることで、フックを出す方向に大きく偏らせることができる。そうしたフックは、右サイドに打ち出されてフェアウェイ中央まで戻ってくるか、あるいは横切って反対サイドまで曲がるかもしれない。
図32:3 フック使用のドライバー。追加重量をクラブの後方、ヒールよりに配分することによって、クラブヘッド重心を矢印の方向に移動させている。その結果「ギア効果(第19章三章)」がフェースセンターでインパクトをした際に発生させることができる。
そうしたクラブは、かなり乱暴なスライサーの悩みを軽減することができるかもしれない。もちろん、そもそも問題のあるスイングに対して反対傾向の修正を加えるという犠牲を払ってではあるが。同様に、アイアンクラブのフェース面の後方に高い位置に重量を集中させることで、低く飛ぶショット傾向のクラブを作ることもできる。
どちらの場合も、インパクトでクラブヘッド全体がねじれることによってクラブフェースが動く働きを抑えるものであるため、飛距離と打感の良さが失われる可能制はある。
したがって、クラブの重量配分をいじるのが好きなゴルファーは、自分が何をしているのかについて二重に注意すべきである。クラブヘッドの総重量は、プレーヤーにとって、特にボールのないときのクラブのフィーリングに影響するかもしれない。しかし、加えたり、取り除いたりした重量の正確な位置と、クラブヘッド全体のバランスに及ぼす影響こそが、クラブの将来の反応と性能を左右する決定的なものとなるのである。
例えば、クラブヘッドの重心位置を変えれば、スイートスポット以外で打ったボールのギア効果を変えたいのでない限り、フェースの曲率(曲面のカーブ度合い)を全て変更する必要がある。またあるいは、フェースのすぐ近くにウェイトを追加した場合、トゥよりのショットは、以前のギア効果によってカーブするのではなく、より右に出ていく傾向になるかもしれない。ヒールから打ったショットも同様に左から戻ってこない傾向になるかもしれない。
もう1つポイントがある。重量配分の変更が顕著になると、スイングに対するクラブヘッドの反応が違ってくる可能性がある。したがって、アイアンのトウにウエイトが集中することで、フェースのセンターからスクエアにボールを打てばフックが出るが、ダウンスイングの後半でトウが遅れがちになり、インパクトでフェースが開いてしまい、スライスが出やすくなることも考えられる。結論を出すには徹底的な実験が必要であり、また、それを行うには適切なクラブテスト機が必要であるため、現時点ではそれ以上のことは断言できない。残念ながら、多くのメーカーが適切に管理されたテストを行ったという根拠はほとんどないように思える。