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第二十六章 ボールの種類による飛行のちがい(1)

第二十六章 ボールの種類による飛行のちがい

前章で述べたとおり、ゴルフボールのサイズや重量については、英国規格であれ米国規格であれ、何らかの科学的根拠に基づいて決められたわけではない(訳者注:1990年に米国サイズに統合されるまで、ボールには英国サイズと米国サイズの二種類があった)。これについて詳しく見ていく前に、現在のボールがどのように進化してきたのか、またどのように作られているのかについて簡単に紹介したい。

ご存知のように、ゴルフボールはゴルフというゲームが始まって以来、幾つもの段階を経て発展してきたものだ。現在判明している限りでは、ゲームに使われるボールの原型は、当時最も入手が容易な素材であった木で作られていた。次に、1415世紀以降に登場したのが、革のケースにハット一個分の羽毛を詰めた「羽毛ボール」である。これを作るのは大変な労力と手間がかかるため、スコットランドの貴族や比較的裕福なゴルファー以外には手が出ず、普通の労働者であるスコットランド人は依然として木のボールでプレーしていた。

当然のことながら、1848年頃に新たに「ガティ」のボールが登場したとき、羽毛ボール製造の技術に最も強い既得権益を持つプロたちほど、「ガティ」を酷評した者はいなかった。東洋からの輸入品の梱包材として使われていたガッタパーチャの塊から直接成形された「ガティ」は、彼らの技術や商売を完全に台無しにしたのだった。

弾力性のある「羽毛」vs.タフな「ガティ」vs.弾力性のある「ハスケル」

「ガティ」は打感が固く感じられるため、一時期はクラブの素材により柔らかい木を使用しなければならなかった。またできたての「ガティ」はビリヤードボールのように表面が滑らかで、サンアンドレアンのフランス人であるM・メシューがロングホールでツーオンを成功させた「羽毛」のボールほどは飛ばなかった。

しかし次第に「ガティ」は使いこんでキズが付いてくるほど良く飛ぶこと、また「羽毛」ボールと違い雨のプレイで使用しても全く傷まないこと、またどのような最悪の状態になったとしてもハンマーで叩く、あるいは再度溶かすなどして再形成が容易であることがわかってくるとその優位性が認められていったのである。

「羽毛」ボールに置き換わる決定打となったのは、メーカーの「ゴーレイ」が、当時「羽毛」ボールが4シリングした時代に、「ガティ」ボールを1シリングで製造し始めたことだった。これによって一気に、一般のゴルファーのポケットにも品質の良いボールが入るようになり、その後50年間にわたってスコットランドだけではなく、イングランドでもあらゆる種類や階級の人々に広くゴルフが親しまれるようになるきっかけとなった。これに追従してクラブメーカーも、より固い「ガティ」ボールを打撃することでクラブにひびが入ったり、すり減ったりすることに対策する工夫をクラブにほどこすようになった。

近代ボールは、1900年ごろ、アメリカ人ゴルファーのDr. ハスケルが、コアにゴムの糸を強く巻き付けるようにしてボールにし、その上にカバーを付けることで、かつての「羽毛」のような弾力性と、打感の柔らかさを再びボールに与える可能性に気づいたことから始まった。

この「ハスケル」ボールは打感が鮮烈で爽快感があり、より直線的に遠くまで飛んだため、その価格にも関わらず主流となっていった。1902年のホイレークで行われた全英オープンの練習ラウンドで、この新開発のボールでアマチュアのジョン・ボールが自分を軽々とオーバードライブしていくのを目の当たりにしたアレクサンダー・ハードは、自費でいくつかのこのボールを購入し、そのまま大会を制したことでひとまずボールの優位性についての問題は解決した。

近代ボールの基準

「ハスケル」ボールから進化したのが、現代のボールである(訳者注:この時代の糸巻きボールは2000年ごろまで製造が続いたが、21世紀に入りラバーの2ピース、3ピース構造のボールに置き換えられた)。このボールをより良いものにしようとする製造業者の試みは、主に耐久性、飛行中の安定性、そして何よりも反発性という3つの重要なプレー特性に焦点を当てたものである。

23章で見たように、必要とされる反発力とは、クラブの打撃に対して潰れることでエネルギーを「蓄える」能力と、再び力強く形を復元することで力強く跳ね返る、すなわち高い「反発係数」を兼ね備えたボールである。この2つが揃うことで、ボールの耐久性、打感、飛距離などに決定的な影響を与えている。

通常の張力のかかっていないゴムの塊であっても潰れることはできる。しかし現代のボールは、中心部のコアの直径の10倍にもあたる25ヤードから30ヤードの長さのゴムの糸を巻き付けたものであるため充分な反発力を得ることが可能であり、広範な変形性能と反発係数を両立した最高のコンビネーションを達成している。中心部のコアはボール重量を1.62オンスにまで高めるのに必要である。通常は重いペーストを詰めた袋で作られているが、スチール製のコアを使うメーカーもある。

様々な要因によって、その製造に限界はある。例えばより強く糸を巻くことでより高い反発係数を達成しようとすれば、ほんの少し使用しただけで糸が切れてしまう可能性が高くなる。しかしメーカーがその気になれば、週末ゴルファーのためにスタンダードのボールよりも強く糸を巻き付けたボールを製造することも可能なはずだ。実際に、通常の製造ラインで作られたボールの一定の割合で、糸が強く巻かれすぎているものが発生し、一般発売用からは除外されている。これらの固いボールはプロに供給されることもあり、アメリカでは「ハイコンプレッション」ボールとして一般に販売されることもある。

こうしたボールの反発係数は通常のボールよりも高く、どんなゴルファーが打ってもより遠くまで飛ぶ。これらのボールのインパクトにおけるクラブフェースとの接触時間は通常のボールと比べてやや短く、プレーヤーのショットに対する「コントロール」には影響しないはずだが、ボールとクラブフェースの間のエネルギーが標準のボールに比べてよりシャープに、高い値まで上昇することを意味する。これは、シャフトを伝わって手に伝わる「硬い感触」となり、アベレージプレーヤーは通常これを嫌い、より柔らかいボールが自分にとって最適であるというメーカーの意図するところを受け入れる要因にもなっている。

図26:1 ドライバーのインパクトの瞬間をX線撮影したもの。ゴムの糸巻き部分はグレーに、中心部の重量のあるペーストで作られたコアは黒く写っている。写真からも、インパクトの打撃によって中心部が大きく変形していることがわかる。このため中心部のコアの素材の選定は非常に注意深く行われる必要があり、さもなければこの変形によるエネルギーのロスが大きくなってしまう。

硬いボールほど飛ぶ

このトピックについては、ダンロップ社のテスト結果に感謝したい。今回使用されたドライビングマシンでは、長、中、短打者のドライブを代表するように選ばれた3つのスイングスピードで、異なるコンプレッションのボールを打つように設定した。表261の結果は、その実験結果である。結果としては女性でも "ハイコンプレッション (固い)"ボールを打てば、より遠くへ飛ばすことができる。

ところでゴルフボールの製造技術は、すでに考えられる最高水準の反発力に達しているのだろうか。糸を巻き付ける中心部、また糸それ自身、またそれを取り巻くカバーの素材やその加工については、いまだ研究が進んでいる分野である。またボールが潰れる際に失われるエネルギーの損失を減らすための、糸の「潤滑」の方法についても研究が進んでいる。そして、最も重要であるのは、糸巻きではない、均質素材(ガティのようにワンピース構造、あるいは単一素材)でボールを作るための素材の実験である(訳者注:結果として2000年ごろからこうした素材によるツーピース、スリーピース構造その他のボールの製造が始まり、現在では糸巻きボールは姿を消した)。

最新の研究によっても解決が難しい技術的問題があることは事実だが、20年後には全てのボールがこうしたタイプになっている可能性がないわけではない(訳者注:この時点からおよそ30年後にそうなった)。現在のボールよりも遥かに製造が容易で、より安価で、壊れにくく、より躍動感のあるボールになるはずである。

しかし全てのメーカーがより反発力のあるボールを製造する事に意味があるのかどうかには疑問が残る。イギリス、アメリカのゴルフルールの権威であるロイヤル・アンド・エインシェント・オブ・セントアンドリュース(R&A)も全米ゴルフ協会(USGA)の双方とも、より性能の高くなるボールを使用して、プロがより遠くに飛ばしていることについて、しばしば懸念を示しているからだ。

ボールはすでに遠くに飛びすぎているのか

USGAは既に独自のテストマシンを導入しており、マシンに設定された規定の強さでボールを打撃した際に、特定のボール初速を超えないようにすることで、全てのボールの反発力の規制を行っている。1965年には、USGAはアメリカの最新モデルのボールのいくつかを「違法」と宣言し、市場からの撤退と在庫の処分をさせるまでに至った。

R&Aはイギリスで製造されているボールに対してそのような規制を実施してはいないものの、その可能性を検討しているとしている。

この問題に対してのUSGAおよびR&Aの警鐘は、単なる保守傾向から発しているというよりも、ゴルフボールの飛距離を制限するという目的におけるメーカー各社の速度テストに、原理的にも実用的にも多くの不都合な特徴が発生していると認識していることが原因と思われる。

しかしもしいくつかのメーカーが、現在のトップクラスの反発係数である0.680.70(訳者注:現在のボールの反発規制のルールでは、上限が0.80となっている)を大幅に上回るボールを製造し、その結果ドライバーのキャリーが40ヤード以上も増えることになるとすれば、控えめに言っても看過できないレベルの問題に発展するだろう。

長年にわたり、英国のベテランゴルファーのあいだでは、現代のボールは既にゴルフの良好なゲームのためには飛びすぎていると考える学派が存在している。この40年間で、多くの有名なチャンピオンシップコースの価値を毀損し、いたるところに新しいバックティの設置を余儀なくし、コース設計に必要な総面積とラウンドにかかる時間を増加させてきたのである。これらのことから、ボールの飛距離に上限を設けるだけではなく、より理想的には、総距離を現在のキャリー程度に収めるようにすることが必要だとしている。

ボールの重量を制限する方法:「ゴルフボールは水に浮くべきか」

ボールの飛距離を抑えるには、インパクト初速などの特定のルールを設けなくとも、もちろんもっと簡単な方法もある。ボール重量を現在の1.62オンス以下よりも、もっと軽くするように制限すれば良い。より単純明快な言い方をすれば、「ゴルフボールは水に浮くこと」というルールにすればよい。

そうなると、ボール直径が1.62インチのままであるとすると、最大重量は約0.3オンス減らして1.3オンス程度にすることになる(直径1.68インチであれば1.45オンスで水に浮く設計になる)。

もしこようなボールが実際のゲームに採用されればどのような影響をおよぼすのか。

外見上は現在のボールと変わらなくても、内部構造には変化がでるはずだ。重量を確保するための重いコアは必要がなくなり、中心部に水を注入することも考えられる。いずれにせよ、現在の1.62オンスのボールよりもわずかに弾力性が向上し、クラブフェースから得られる打感もより鮮烈なものになるだろう。またボール初速も、ボールの軽量化によって得られる理論値である2.5%程度ではなく、57%程度の向上になると考えられる。

こうしてみると、1.3オンスのボールは現状の平均的な1.62オンスで製造されるボールよりも飛距離が出るように思えてしまう。しかし軽量化されたボールに対する飛行中の空力の影響は、前述の向上要素を相殺してなお上回るものになる。総合的に見れば、ボールにはたらく揚力と抗力が増大することになる。

結果としてこのボールは、高く上がって、飛距離が出ない、より急角度で着弾するボールになるため、1.62オンスのボールに比べてランも出なくなる。

26:2は、異なる飛距離の打撃によって、1.62オンスのボールと1.3オンスのボールのキャリーとランがどのように変化するのかをコンピューターを用いて予測した結果である。

この計算値は、ダンロップ社のドライビングマシンで同様の実験を行った際に計測した、ダンロップ社から提供された数値と照合することができた。その結果、実測値と計算値は非常によく一致した。例えば、1.3オンスのボールは、ショートドライブのキャリーを169ヤードから164ヤードに、ロングドライブのキャリーを220ヤードから204ヤードに短縮する結果となったのである。

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