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第二十五章 ボールの飛行 理論をゲームに活用する(2)

ティーショットに2番ウッドを使う?

これまで検証してきたように、ドラーバーの最適な打ち出し角度は、他の要因、つまりボールの初速にも影響を受けるが、これはつまりどれだけ強く打撃をできるかにかかっているということだ。

一般的な上級者のゴルファーの場合、打ち出し角度が20°でキャリーが最大になり、13°でトータル飛距離が最長になる。しかしこれがよりハードヒッターの場合になると、それぞれ18°と11°がもっとも効率的な数値になる。またより打撃力の低いショートヒッターの場合では25°と18°になってしまう。

この理由は、もちろん非力なヒッターほど距離を最大化するのにより多くのバックスピンが必要になるからである。これがシニア、レディースのゴルファー、あるいは初心者やジュニアゴルファーが、ドライバーよりもスプーンを使用した方が距離が出ることがある理由である。

ただし、クラブとボールの接触角やスイングの力加減も、最適な打ち出し角度に影響するため、ロフトの少ないクラブの恩恵を得られるのはハードヒッターに限られる。そのためこのことを理解している今日のクラブメーカーは、特に週末のカジュアルなプレーヤーのために、従来よりもロフトを増やしたドライバーを製造している。

しかし、ゴルファーの理想的な打ち出し角は、個々のプレースタイルによって異なる。例えば、ショートヒッターであってもスライスしがちなゴルファーは、ロフトの立ったドライバーを使用した方が、単純にスライスの影響を抑えられる点で良い結果が得られる可能性もある。逆に、ロフトの立ったドライバーでスライスが出るようになるプレイヤーもいれば、曲がらないが飛ばないというプレイヤーの場合、2番ウッドや3番ウッドを使った方が飛ぶということもある。

風の影響

これまで見てきたスピン、抗力、揚力、キャリーの関係を見ればわかるように、フォロー、あるいはアゲインストの風がショットに与える影響は甚大である。

フォローの風が吹くとボールと空気の衝突の速度が低下するため、同じ強さ、同じバックスピン量で打ち出したとしても、飛行中の空気抵抗と揚力が減少する。したがって、この影響を補うために、ボールの打ち出し角度を高くしたり、バックスピン量を多くしたりする必要がある。

逆に、アゲインストの状況では、ボールの抵抗と揚力を増加させるため、ボールを低く打ち出す、あるいはバックスピン量を減らすなどの対応うぃしない場合、ボールが通常より高く上がり、通常の状況に比べターゲットにショートしやすくなる。

現実にはフォローであれ、アゲインストであれ、それぞれの状況における最適な打ち出し角度が存在するのと同じように、どのような打ち出し角度に対しても飛距離が最大となる風速が存在する。しかしこれはキャリーについての話であって、総距離においてはフォローが強いほどランは伸びる。プロゴルファーなら誰でも知っていることだ。

これは例を示した方が理解が簡単である。表25:1は、同じドライブでも風速が異なるとどのような影響があるかを示している。

25:1 フォロー、アゲインストでどのようにキャリーとランが影響を受けるのかについて。本表のランの距離は、ボールが着弾した際のボールスピードから計算されたものだが、当然着弾地点の状況によって数値は変動する。

ドライブの総距離(キャリー+ラン)は追い風で長くなり、向かい風で短くなるが、キャリーについては同様でない。フォローの風の強さが毎秒20フィートから毎秒40フィートになるにつれてキャリーは再び減少し始め、ターニングポイントは毎秒25フィートの風速と計算される。

表の数値はコンピューターによる計算値であるため常に実情に即しているとは限らない。しかし、フォローの風が強くなっても、キャリーが比例して増加しないことは明らかである。揚力の減少が抗力の減少を打ち消す結果、キャリーは最大になる状況は風速25フィート/秒で発生すると計算され、その後、再び減少していく。

打ち出し角度を高くするほど、最大キャリーを得られる風速の値も大きくなるが、ハリケーンのような風速でない限り、ミディアムアイアンやショートアイアンのキャリーは、フォローの風の強さに応じて増加すると考えることが無難だ。

追い風はボールを加速して前進させることはできないが(ボールの速度を超える、つまり秒速140マイルを超える風速であれば可能)、現実には抗力を減らすことで、時速135マイル程度のボール初速では、その落下を遅くさせることができる。

強い追い風の中、ティーグラウンドでボールを遠くにあるバンカーを超えて飛ばそうとするプレーヤーにとって、ドライブのキャリーが減少することは重大な意味をもつだろう。もし、プレーヤーが自分のショットを熟知していれば、ドライバーよりも2番ウッドや3番ウッドの方がより確実にバンカーを超えるキャリーを達成できると判断するかもしれない。バンカーを越えてドロップするのに十分な時間、ボールを空中に保つには、通常よりも多くのバックスピンが必要になる。これは、ドライバーで得られるクラブフェースからの大きなスピードよりも、より大きな影響を及ぼすこともある。

現実には、ほとんどの有能なゴルファーは、風上や風下でプレーするとき、本能的にボールを飛ばす角度を修正する。打法を調整する、あるいはクラブを変えるなどして、フォローではボール初速が減少するとしても高い打ち出し角度が確保できるクラブを使い、アゲインストではボール初速の確保できるクラブで低く打ち出すといったことである。

強い向かい風は、フックやスライスの幅を倍増させる

25:1の表はまた、ボールの飛行時間が、フォローやアゲインストの風の強さによって変化することを表している。

フォローのショットは、より遠くまで飛ぶにもかかわらず、より速く下りてくる。例えば、強い風を背にしたフルドライブの滞空時間は5秒だが、同じ強さのアゲインストの風を受けた場合は6.5秒になる。このことは、意図しないサイドスピンがボールの着地点に与えるダメージの大きさに相当の影響を与える。この影響は極めて簡単に算出することが可能だ。

サイドスピンが与えられたボールが飛行中に左右にカーブする瞭は、サイドスピンのフォースが作用する時間の二乗に比例する。

従い、風速40フィート/秒のアゲインストの場合、表25:1から7.3の二乗の曲がり幅となり、フォロー40フィート/秒の場合は4.4の事情となり、これらを比率で見れば2.7:1となる。よってアゲインストの状況では、フォローの場合に比べてサイドスピンによる曲がり幅が2.7倍になることになる。

しかしこれはまだ全体の一部の話である。フックやスライスを引き起こす力は、基本的にリフトを引き起こす力と同であり、実際には、スピン軸が少し傾いているだけの揚力である(20章参照)。従い、フック、もしくはスライスをするフォースは、揚力と同様、大気中を飛行する速度によって異なってくる。

打ち出し時点で発生しているフック、もしくはスライスのフォースは、アゲインスト40フィートの状況ではフォロー40フィートの状況に比べて前述の通り2倍以上のサイドスピンのフォースを発生させる。

さらにこれをボールの飛行中全体で考える場合、その2倍以上になったフォースが滞空中に採用し続けることになる。

従って、サイドスピン力と滞空時間を考慮すると、アゲインストでのフックやスライスのショットは、フォローの状況に比べて5倍以上(2×2.7)の曲がり幅になる可能性がある。

つまり、ゴルファーは、無風の空気中ではラインから10ヤード外れてフックまたはスライスするようなショットが、強力なフォローではラインから5ヤードしか曲がらない、あるいは強力なアゲインスト下ではラインから25ヤード以上逸れると予測しなければならないのである。

もちろん、ほぼすべてのゴルファーは、これが実際にどのように離京するのかを認識している。しかし、アゲインストとフォローで比較した場合の数学的なインパクトは新しい発見に感じるかも知れない。そして強風のラウンドのときに、各ホールのハザード目の前にしてスコアメイクを考えるならば、常に覚えておかなければならない事実になるだろう。

横風を利用する

左右からの横風を利用して、つまり右からの風にフックを、あるいは左からの風にスライスをかけることで飛距離を伸ばすことができることは、多くの熟練ゴルファーに知られている。しかし、その根本的なメカニズムはあまり理解されていないかもしない。実際には横風がボールの飛距離を伸ばすように貢献をしているわけではなく、サイドスピンが横風による抗力の減少に寄与する。

25:2 横風によって飛距離が伸びる原理。ここではスライス回転のかけられたボールが左から右に吹く風にさらされた状態を表している。ボールの前方ではボール表面の大気と横風が同じ方向に動くため、気流が早くなることで低気圧が発生している。またボールの後方ではその逆の現象が起きることで高気圧が発生する。このためボールの前方に向けての揚力が発生することで飛距離が伸びる。実際には揚力、抗力、ヨーモーメントが複雑に関係し合うため、このような単純な力学関係にはならないが、それでもスライス回転がかかっていない状況に比べてこの状況下で飛距離が伸びることは事実である。当然のことだが、ボールは充分に左方向に打ち出されていなければならない。

25:2は、完全なスライスのスピンのボールが、左から右の横風の中を飛行する際の様子を俯瞰的に表したものである。スピンの発生によってボールの前方では横風と同じ方向にボール表面が動くことになり、その周辺では気流の流れが速くなり、ボールの後方では気流が遅くなる。これは第24章で発生しているのと全く同じ状況であり、ボール前方部の高速な気流はそこに低気圧が発生することを意味し、また後方部の低速な気流は高気圧を意味する。これによってボールが進行方向に押されるフォースが発生するのだが、もちろんここではこれまでに見てきた、そのほかの抗力、揚力、横方向への力などが複合的に作用している。結果として発生しているのは単純に抗力の減少である。

反対にこの状況でフック回転を発生させれば、ボール前方の気流が横風とぶつかる形となり、抗力が増大する。これが「風にぶつける時はアゲインストと同様に一番手上げる」ことをしなければならない状況である。

未来のゴルフの可能性

前章と本章を通じて、我々は専ら現在の男女のゴルファーがプレイに使用しているクラブやボールにおいて発生しうるゴルフ弾道学にのみ焦点を合わせてきた。

しかし、これらは、科学的な観点からは、本来神聖なものでも、変えられないものでもない。もし、ゴルフというスポーツがゼロから新しく発明され、科学の可能性を最大限に活用するように設計されたとしたら、現在のクラブの設計や典型的なセットの構成は、完全に最適とは言えないかもしれない。また、ゴルフボールのサイズや重量も、特に理由があって現在のものになったわけではないかも知れない。

現在、7000ヤードを歩き、3時間半(米国では6時間まで)のラウンドとそれに伴う土地代やコースの維持費を必要とするゴルフは、ゲームをプレイする最も効率的な方法と言えるだろうか?さらに、カップの大きさが44/1インチであることには、単なる歴史的慣習以上の正当な理由はないだろう。

ゴルフの基本的な道具のルールの一部または全部を変更することで、大多数のプレーヤーにとって、より魅力的で楽しい腕試しの場、あるいはより便利なレクリエーションの形態となる可能性もある。

この議論は非常に広範かつ、意義のあるものである。ホールのサイズに関しての疑問は、第21章で検討され、第26章と第32章でも引き続き検討されるが、ゲームの基本的な要件を変更すると何が起きるのかは、非常に有効な議論であろう。

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