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第二十三章 ゴルフの弾道学 - スピンと飛行はどのように起きるのか (3)

スピンの実験

これはまだチームにとって未知数の実験であったが、インパクトの0.0005秒の間に発生する、ボールとクラブフェースの間のスライド、スピンの開始から純粋なスピンへの移行の速度における基本的な計測を行うには、そこで起きている事象の詳細なモデルを作る必要があり、極めて難易度の高い技術的問題が予想された。しかしこれら総合的に作用する複雑な諸要因の最終結果のみを測定することはそれほど困難ではない。

そこでチームが行ったことは、ボールを打つために使用するクラブのフェースの摩擦量を変えたクラブでそれぞれの打撃を行い、それらの全てのインパクトを撮影するというものであった。

そこで得られた結果は、物理学と力学の理論から算出された仮説の正当性を、大部分実証するものであった。

23:6 ボール初速とスピンを測定する方法。インパクトの時間は一瞬であるため、通常の撮影ではクラブヘッドを別々に撮影することができない。やや暗い室内でカメラのシャッターはほぼ開放しておき、短時間で二回発光するフラッシュが光った時のみを記録するように設置された。フラッシュの発光タイミングは電気的に制御されている。ここから、ボールの移動距離と打ち出し角度、およびボールのスピン量を測定することができる。写真は5番アイアンを使用しているが、発行タイミングのインターバルである0.032秒の間に、ボールは5.75インチ動き、140°回転していることがわかる。ここから計算して、ボール初速は時速102マイル、スピン量は毎秒122回転となる。

 

クラブフェース:滑らかなものと粗いもの やや不可解な実験

クラブフェースの表面の粗さ(摩擦力)によって、ボールの飛行とバックスピンにどの程度影響が与えられるのかをテストするために、一つは通常の溝がありサンドブラスト加工されたクラブフェース、もう一つは滑らかなクラブフェースという違いを除き、全てが同じスペックであるクラブのペアを用意した。ダンロップ社はこの条件で、5番、7番、9番の3組のペアを製造してくれた。

また二つの別々の実験をおこなった。一つは、プロゴルファーのノーマン・クイグリーが、サンドイッチのプリンスズでインドアのネットにショットをする際に、ボール初速とバックスピン、打ち出し角度を全てのストロークで計測した。この実験ではそれぞれのクラブのペアでおよそ50球(通常のフェースと滑らかなフェースで25球ずつ)打撃をおこなった。

次に屋外の測定では、一連のセットによるキャリー、ラン、そしてトータルの飛距離をクイグリーがショットし、またローハンディキャップの2人のアマチュアによっても同様の実験が行われた。ここではプレイヤーはそれぞれのクラブのペアで100ショット(通常のフェースと、滑らかなフェースで50球ずつ)を行った。

23:123:2はこれらのテストの実験結果である。

23:1 表面の滑らかなクラブと、通常のクラブを、プロが打撃した場合の、ボール初速、スピン量、打ち出し角度

23:2 表面の滑らかなクラブと、通常のクラブを打撃した場合の、キャリー、ラン、トータルの飛距離

読者諸君においては、この表の実験結果からあまりにも多くの結論を導きすぎないことに注意をしてもらいたい。滑らかなフェースと溝の付いたフェースのクラブにおける実験結果の違いは、与えられたスピン量も含め、ほぼ重大とは言えないレベルであり、つまりそのレベルは新品のウェッジと使い古されたウェッジの間に偶然発生するレベルのものでしかないということだ。

強いて言えば、滑らかなフェースのクラブでは、ややボールが遠くに飛んでいるように見えるが、これはキャリーとランの双方においてバックスピンがわずかに減少したという可能性があるのみである。

しかしこれらの違いは、実際のゴルフのゲームにおいて実質的な違いをもたらすものとは考えづらい。どのようなプレイヤーであっても、使用するアイアンのセットに関係なく、個人のスイングのレンジにおいて調整を行っているため、おおまかな一般的な結論としては、フェース面の溝や摩擦力は、ボールとクラブフェースのコンタクトに与える影響は極めて小さいということになる。

これらの結果は、調査会社であるアーサー・D・リトル社が全米ゴルフ協会のために実施した実験で得られた結果と一致している。同社は、滑らかなクラブフェースは、通常の溝のついたクラブフェースと同レベルのバックスピンをボールに与えることができるが、その一貫性においてやや劣るとしている。同社の実験では、我々の実験と同様、屋内の実験室屋外の双方で行った実験の結果として、フェースの粗さがわずかなもの(例えば溝が極めて浅いもの)であっても、通常の溝、あるいは溝が寄り深く掘られたフェースのものと、同様のバックスピンが一貫性をもってもたらされるとしている。

23:7 本章の実験で使用された、フェースが滑らかな9番アイアン

一方で、アイアンクラブのフェースに溝を付けるという普遍的な習慣は、ライダーカップにおける違法な粗面化に対するクレームなどに見られるように長年にわたってプレイヤー達に重視されてきた事実を踏まえれば、この習慣の何らかの実用的なメリット、あるいは少なくともこの習慣の始まった起源について考える必要があるだろう。

ここにはいくつかの可能性が存在する。このフェースに溝を付ける習慣は、ガッティボール(天然樹脂を固めたもの)時代に始まったというものである。ガッティボールは表面の粗いクラブフェースで打撃されてボール表面がガサガサになった方が良く飛ぶというもので、そう考えると現代のボールにおいてのメリットとなる関連性は見受けられない。

次に、溝の外見がフェース面をプレイヤーにより強く意識させることで、ボールコントロールのイメージを湧かせやすいという説である。ゴルファーが自身のショットにどのようなイメージを抱くかは、そのプレイに大きな影響を与えるため、これは無視はできない。

三つ目は、粗面化により、トップクラスのプレーヤーが好む、わずかに低い弾道のボールを打ち出すことに効果があるというものである。実験室で行われたノーマン・クイグリーのショットからは、この傾向は実証されなかったが、アメリカでのテストではこの傾向が見受けられた。当然なのだが、(科学的な意味で)完全に滑らか(摩擦ゼロ)のクラブフェースはかなり高い弾道を生み出すのは前述のとおりである。

四つ目として、これらの実験は、全てミディアムもしくはショートアイアンのフルショットによって行われている。溝のついたクラブを使用することで、ショート、ピッチショットでより多くのバックスピンを得られるとすれば、ボールを鋭く止めたい状況などで有効となる可能性がある。

その可能性はあるが、少なくともその後のさらなる実験によれば、そうした結果は得られなかった。グリーンまで40ヤードのピッチショットで、溝の付いた通常の9番アイアンと、表面の滑らかな9番で得られたランの距離(それぞれで50球以上のショットを行ったもの)では、表面が滑らかなものが36.7フィート、溝のついたもので37.9フィートと、実質的に同じものであった。

第五に、溝があることで、水分や、芝の成分がクラブフェースに残っている場合でも、クラブフェースの摩擦力を保持する働きがあるというものである。

水分の多い芝では何が起きるか

クラブフェースが濡れている状態で打撃を行うと何が起きるのかについては一考の余地がある。

まず、濡れているとは何を意味するかによって異なる。水分は、インパクト時のボールとクラブフェースの間の強烈な圧縮にさらされると、いくつか独特な効果を発揮する。

例えばある条件下では、水分がボールとクラブフェースの間に潤滑膜を形成されることがあり、この場合インパクトのボール挙動がほぼ純粋なスライドになる可能性があり、結果としてバックスピンがほぼ発生しなくなる。

ただしこれは純粋な「水」では起こらないようである。しかしそれは石けん水では起こり、芝の成分が含まれた水分でも起きる可能性があり、これがプロ達が「フライヤー」と呼ぶ、深いラフ、あるいは元気な芝生の状態からであればフェアウェイからのショットでも起きる現象である。この場合、打ち出されたボールは想定よりも強く、高くなり、着弾した際に「噛む」ことがないため、ランも多くなる。これらの全ての現象は、ボールとクラブフェースの間に潤滑膜が形成された場合の影響と考えられる。こうした条件下では、溝のあるフェースの方がグリップを保持できる可能性がある。

しかしハイスピードカメラの数ショットの撮影から得られた唯一のエビデンスは、ボールとクラブフェースの間に石けんフィルムを挟むと、溝のあるクラブでも滑らかなフェースのクラブであっても、いずれも大したバックスピンを発生させられないことを示すものだった。いずれの場合でも、ボールがクラブフェースから再び離れるまで、フェース上を滑り上がってしまう。

芝の成分のような、より効果が低いと考えられる潤滑膜の形成がされている条件下で、溝のあるフェースの方が滑らかなフェースのクラブよりも多くのバックスピンをかけられるのかどうかについては、チームがこれまでに行ったあらゆる実験においてまだ明らかになっていない。

ここまで紹介した説の、ほとんど個人の感想のレベルである、「人工的に摩擦力を高めるよう溝などを施したフェースがショットに何らかの影響を与える」という仮説に対しての、あらゆる実験によって導かれた主たる結論としては、「ほとんどの条件下において、全ての実用的な目的において、それらの努力は何の効果も生み出さない」というものである。実際にテストに参加したゴルファー達は、実際にそのように見えた。彼らは二つのフェースのクラブのショットにおいて同じ感覚を持ち、出てきた結果も同じものにしか見えなかったのである。

ボールが温かいと違いはあるのか?

多くのゴルファーは寒い日のラウンドで、二つのボールをホールごとに交互に使用し、使っていない方のボールを可能な限り温かいポケットに入れておくことで、ドライバーの飛距離を数ヤード伸ばせるはずだと信じている。これが無意味とは限らないが、気温が低く密度が高くなる冬の大気では、夏場の飛距離を達成することは誰にとっても困難である。

ボールの反発係数、つまりクラブフェースによって潰されたボールが再び形状を回復して飛び立っていく際の強さをしめす指数は、ボールの温度に直接的な影響を受ける。ボールが温かくされていれば、インパクトにおける反発係数は向上し、飛距離もそれに応じて伸びる。気温21°でキャリー200yのドライバーショットは、気温0°ではキャリー185yになってしまう。

しかし寒い日にズボンのポケットで10分ほどボールを暖めてその温度を保つようにすることで得られる影響は、楽観主義者が信じているよりも遥かに小さいものになるはずだ。ゴムは熱伝導率が低く、充分に効果が期待できる状態まで温められるまでには数時間を要するが、表面はすぐに温かく感じられる。

いっぽうで熱が失われる速度も非常にゆっくりであるため、寒い日のドライバー飛距離を伸ばしたいのであれば、前日の夜にいくつかのボールをボイラー室に保管しておき、34ホール毎にボールを交換して、使用するボール以外はズボンのポケットに保管しておくことで、かなりの影響を与えられるはずだ。

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