ベン・ホーガンの「モダン・ゴルフ」を
あろうことか「こんなものフック矯正マニュアルだ」と断定し、自分の著作を作ろうと決意してはみたものの、ホーマーはプロゴルファーでもなく、物理学の専攻でもなく、そして本を書いた経験もなかった。
彼はものすごいスピードでメモを取ることができ、研究ノートは膨大な量になったが、タイプライターを使ったことがなかったのでタイピングはむちゃくちゃ遅かった。
研究を重ねるということと、それをプレゼンテーションとして再構成するということは全く異なる種類の作業であり、また彼が望んでいたのはゴルフスイングを「表現」することではなく、「説明」することだった。
「モダン・ゴルフ」が著作として優れている点として、アントニー・ラビエリによる豊富なイラストでホーガンの伝えたいことをより豊かにしている点だった。ゴルフを幾何学と物理学の側面から説明を試みるホーマーにとって、こうした視覚的表現はその著作に不可欠に思えた。もちろん彼は絵を描くこともうまくない。
この頃までに、彼は近所のゴルフレンジでコーチをするまでになっていた。それは小銭を稼ぎたいということよりも(この時代プロ・コーチの主な収入源は、レッスン・フィーよりも道具の販売仲介料だった)、自分の理論を実際のコーチングに応用する試みのほか、さまざなレベルのゴルファーを観察することで研究のサンプルを得ることの方が大きかった。
1964年のある日、彼はレンジである女性が練習しているのを見かける。最近毎日のように見かける女性である。もちろんコーチについて習っているのであろう、スイングは悪くないが、安定性に欠けるのかボールは打ち出されるたびにさまざな方向に飛び出していく。ある意図を持ってホーマーは彼女に声をかける。
「ちょっとよろしいでしょうか」
ものの5分、ほんの少しフラットレフトリストの矯正をしただけで、彼女の球はものすごく安定するようになった。すっかり感激した彼女は、ホーマーに正式にレッスンを依頼するようになる。彼女の名前はダイアン・チェースといい、二人の子どもを学校に送り迎えする合間に、ほぼ毎日のようにレンジに来ていた。
週に4回で20ドル、このような契約で始まったレッスンを4週ほど続けたある日、ホーマーはある提案をする。「実はゴルフの本を書いておりまして、もしあなたがその本のモデルになっていただけるなら、今後のレッスン・フィーは必要ありません」
こうしてホーマーは、TGMに掲載するモデルを得たのである。
ダイアンちゃん 当時32歳 人妻 (C) The Golfing Machine
ダイアンの協力を得て、ホーマーは1967年末までにTGMの元となる「The Star System of Golf」のすべての原稿、そして写真を作り上げたが、さらなる問題は彼は本を出版する仕組みを分かっていなかったことである。教会の知人に相談し、彼はある出版代理店を紹介してもらう。
ホーマーの中では、この本の内容はゴルフ史上最大の最終兵器的な著作であり、どんな出版社もこぞってこの出版に協力してくれると思い込んでいた。
しかし出版社の反応は冷淡だった。代理店とホーマーの間には猛烈な回数の手紙のやり取りがあるのだが、要するに代理店の言い分としては
・ゴルフの本は成長市場ではありますが
・あなたは有名なプロもしくはレッスンプロでもないし(レッスンはしてるけど)
・物理学者でもないし物理専攻でもないし
・その物理にしたって何か画期的な発見や理論でもないし
・このマニュアルみたいな文章読んでて頭痛くなるし
・すごく研究したのはわかるけど、つまりこの本が何の役に立つのか分かりづらいし
要するに、有名プロが書いた、「必殺xx打法、これをやるだけであなたは必ず80を切れる」みたいな読者側のメリットが明確な本じゃないと商売にはならないんだよ。
というものだった。
ホーマーは失望したが、このやり取りは、TGMにとって一定の価値を付加するものだったかもしれない。
本の題はここで初めてよりコンセプトをわかりやすくした「The Golfing Machine」になり、プレイヤーからインストラクターまで、この本をどのように利用するべきなのかという手引きを追加するなど一定の改善がなされるのである。
そして1969年、彼が初めてゴルフをしてから30年経った年の秋、「The Golfing Machine」の1st Edithionが自費出版によって発売されるのである。ホーマー・ケリーは62歳になっていた。
すごいねー。ヒモなのに人妻ナンパして自分の本にタダで協力させちゃってるねー。ホーマーの奥さんとかダイアンちゃんの旦那とか大丈夫だったのかねー。「こんなの絶対売れないから」って言われて自費出版したあげく、本当に今だにあんまし売れてないしねー(笑)
モダン・ゴルフは今でも年間5万部くらい売れる超ロングセラーだって言うけどねー