サイトアイコン 大庭可南太の「ゴルフをする機械」におれはなる!

第十六章 手首のアクション「スクエア派」と「ロール派」(その1)

1960年代初頭にかけて、ゴルフ界の言論は「スクエア派」と「ロール派」の二つの支持者の間で活発な議論が繰り広げられたことで活気づいた。スイングにおけるこの要素は、ほぼ全てのプレイヤーに影響を与える内容を含むので、ここで詳細に考察をしてみたい。ただ本書の論点とずれている部分になるため、一貫性を重視する読者は本章を飛ばしてもらって構わない。

これまで述べてきたように、正当なゴルフスイングにおいては、クラブフェースはスイングプレーンに対して常におおよそ直角の関係を維持しながらロールしているのであり、可能な限りモデルの機械的動作において再現性、また単純性を高めるために、プレイヤーはそのボディ、両肩、両腕、両前腕などを使用している。

つまり全てのゴルファーは「クラブヘッドをロール」している。その範囲はスイングアークがアドレスで目標方向を向くプレーンであるならば、バックスイングのトップにおいてもフェース向きがスイングアークに対してスクエアであるか、あるいはアークに対して平行であるかの範疇であり、いずれにせよボールを目標報告に打ちだそうとするのであれば、ダウンスイングの最終段階においてフェースはアークに対して垂直の状態を回復させようとするはずである。

これまで見てきたように、スクエアな状態からクラブヘッドのロールをリストアクション(より正確に言えば左前腕のアクション)によって行えるのは30°程度が限界である。よって残りの60°程度は腕の上げ下げやショルダーターンなどのコンビネーションによってもたらされることがモデルのアクションを再生するために必要となる。

よって単純にトップでクラブフェースが90°開いたと表現したとしても、これはスイングプレーンの向きとクラブフェースの向きの相違を表現しているだけであり、トップで左手の甲の向きがインパクトのポジションからは90°「ロール」しているというのも同様である。いずれにせよ左前腕とクラブヘッドはインパクトゾーンで90°ロールバックしなければならないが、そのうちの60°ほどは解剖学的にロールと呼べるものではない。それを承知のうえで、トータルの角度で「トップでフェースが90°ロールした」という表現を用いることをお許し願いたい。

 

全ての「スクエア派」はロールしている

しかしこの事実は、「スクエアメソッド」として提唱されている内容をナンセンスだと言っているのでない。その逆である。これは完全に表現の手法の問題であるが、「スクエア派vsロール派」の議論においては、双方とも必要な言語が欠けているために大きな混乱を生じており、ここでは双方が真にどういうことを主張しているのかを考察してみたいと思う。

「ロール」は常に発生している。しかしその量と発生のタイミングはプレイヤーの選択によって広範なバリエーションンがある。これがこの議論の総括的な結論である。

 

「スクエアメソッド」の意味すること

では「スクエアメソッド」、あるいはそれに準ずるものがどういうものかというと、おそらく標準的な人類にとって最も機械的な単純性を持ってモデルのアクションを再現することが可能な方法である。バックスイングのトップ付近においても、フェースのロール量は90°前後であり、クラブフェースと左手甲プレーンに沿った形となる。さらに、ロールはバックスイング中一定の割合で進行し、下方のレバーによってクラブヘッドがボールを打ち抜くように振り出されるダウンスイングの後半に向けて、全体のシーケンスのタイミングに沿った形でロールバックとして開放される。

我々の考える限り、これが最もシンプルにゴルフを行う方法であり、大半のゴルファーにとって、同じアクションを再現するのに最も適していると推測される。

また個人の嗜好にともない、ゲームに対する理解と向上心のもと、特別な目的のショット、あるいは全てのショットにおいてそのロール量を増減させることも容易である。

 

自由な「ロール派」 トップでオープンフェース

一方、機械的に全く反対の要素を持つ手法がこれである。プレイヤーがトップで90°以上フェースを開く場合(おそらくそれは120°程度が上限となるが)、インパクトの最終段階に向けてより迅速にロールバックを行うことが必要となる。このことは当然、打撃の正確性およびタイミングをシビアなものにするため、精密性や再現性を困難なものにする。

しかし他方で、「スクリュードライバー効果」を増やすことにつながり、30°程度の余分なフェースターンによってよりパワフルかつ、よりクラブヘッドスピードを増した状態でボールを打撃できる可能性がある。

実際にフリーロール派は、アクション全体をボディよりもクラブヘッドに注力して開放する事が可能である。プレイヤーはボールをボディよりも両手を使ってボールを打撃する感覚を得られやすいために(トータルボディスイングのパワーソースは常にボディであるとは言っても)、現実に起きていることを実感しやすいという点で、少なくとも正しい感覚を得られる余地はある。とりわけ非力なプレイヤーは、こうした余分なロールを行うことでより強い刺激(および実感)でクラブヘッドのリリースの感触を得られる可能性がある。

要するに、筋肉の研ぎすまされたアスリート的なボディから得られる感覚よりも、週イチゴルファーにとっては最大のクラブヘッドスピードを体感できるはずなのだ。

しかしそのプレイヤーは常に正確性とタイミングを損なう危険性への対策を講じなければならないだけではなく、インパクトを早すぎるタイミングで迎えてしまうことにも対応が必要である。さもなければ、この手法の最大のアドバンテージである、インパクトに向けてのヘッドスピードをロスしてしまうことにつながる。

あるいは反対に、おそらくはフックが出ることへの恐怖心から、しっかりとロールバックを行うことを反射的に止めてしまうということもある。この手法を選ぶものは、バックスイングでは躊躇なくロールを行うべきであるし、またダウンでも怖れることなくロールバックする事が必要である。

このようなプレイヤーは、バックスイングのトップにおいて左手首を「カッピング」する傾向がある。つまりコックと同時に、左手首がトップで甲側に折れ、クラブのトゥもプレーンに平行ではなく。おおよそ地面の方向を向く。

この手法は一般に「オープン・アット・ザ・トップ」と呼ばれており、「左手首のカップポジション(背屈)」というのも同義語である。当然のことながらクラブフェースのポジションの精密性は、ほぼ採用しているグリップのタイプにゆだねられる。

クリスティ・オコーナーの「カップポジション」のトップ。トップにおけるクラブフェースと、左手甲の向きがほぼ地面に垂直になっている。このことは、スイングプレーンに対しておよそ130°程度のロールを発生させたことを意味する。この状態からインパクトを迎えるまでに、多量の前腕のロールを必要とする。ここで二つの点に注目したい。一つはオコーナーがややグリップエンドを余して握っていること。もう一つは左手の握りをやや弱めていることである。こうした名手は何人かいるが、おそらくダウンスイングからインパクトにかけての適切なタイミングで左手を強く握り直すことで、クラブヘッドのスピードを増やす狙いがあると思われる。ただしやや複雑な方法であるため、大半のゴルファーはこの手法を採用していない。

「プッシャー」 トップでシャット

反対の手法が「シャット・アット・ザ・トップ」、あるいは「凸型の手首(掌屈)」と呼ばれるものである。「シャットである」とは、トップにおいてクラブフェースがプレーンに水平よりも上方を向く状態で、バックスイングのロール量は90°未満となる。「掌屈」とは、プレイヤーの左手首が、コックと同時に手のひら側に折れる状態を言う。

このアクションが全体として合理的であるのは、ダウンスイングにおいてボールにクラブヘッドが向かう際、クラブフェースの向きをよ早い段階で目標方向に戻してこられるために、インパクトにおけるクラブヘッドのタイミング、あるいはフェース方向の管理のエラーが減少することでミスショットの可能性を低減できるからである。

従い、この方法でスイングするプレイヤーは、インパクトにおけるフェースのロールバック量を減らそうとする。これにより前述のスクエアメソッドにおける、90°前後のロール、及びロールバック量よりも少ないフェースターンでインパクトを行うことが可能になる。バックスイングにおけるロール量を90°未満にすることで、ダウンスイングの最終局面までにロールバックするフェースのターン量も減らすことができる。これによって少なくとも理論上は、ターゲット方向にスクエアな状態のクラブフェースでインパクトを迎えられるように、フェースターンの割合を変化させることも可能になる。

この手法を採用するとはいえ、60°から70°程度のクラブフェースのロールは発生するのであり、「プレーンに対してスクエア」にクラブヘッドを動かすという機械的に理想的なスイングを、意識的な手首の操作を伴わずに実行することができる。

その代償として、「スクリュードライバーアクション」の機械的優位性は放棄しなければならず、手首の動作の感覚も弱く、制限されたものとなる。このことにバランスを取る形で、プレイヤーはインパクトに向けてより顕著なボディアクションを採用するために、「プッシング(押す)」の外見の特徴が現れる傾向がある。

デイビッド・トーマスのシャットで「掌屈」したトップポジション。フェースはほぼ地面と水平な状態になっており、左手首の甲の向きもそれに近いものとなっている。これによって、彼のスイングプレーンに対してフェースはおよそ40°程度しかロールしておらず、インパクトにかけて非常に少ない前腕のロールで済むことになる。しかし「掌屈」の反動として、その両手を大きくバックスイングするために、非常に大きなショルダーターンが必要となっている。

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